トライアングル【最終章】連想(ツラナルオモイ)④


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「、、、梨緒。、、、梨緒。」
救急車に乗せられた梨緒の姿に居てもたってもいられず、
「俺も連れてって下さい!」と、静止も振り切り
強引に乗り込んだ亮輔は
監督と共に"手術室"と、赤いランプの光る部屋の前の椅子に
前のめりで口の前で両手を結び、祈るようにつぶやく。

つぶやく度に一つ、また一つと思い出す梨緒の顔。
地団太を踏んで悔しがる梨緒の顔。
プーッと膨れて怒る梨緒の顔。
猫のように笑う梨緒の笑顔。
「何でこんな時に梨緒の顔ばっか浮かぶんだ、、、。」
走馬灯のように駆け巡る梨緒との思い出に、悪い予感が
頭から離れなくなる。

俺はバカだ、、、。祐介に八つ当たりして、、、。
祐介が悪いと言うなら打たれた俺のほうが悪い。

祐介の打球が偶然当たったのも、俺が打たれさえしなければ起こらなかったのだから。」
どう考えても祐介が悪いわけじゃない。
でもあの時はああ言うしかなかった。
どこかにぶつけたかった。誰のせいでもない。
でも誰かのせいにしたい。
誰かのせいにして解決するはずがないのに、、、。
「、、、俺のせいだ、、、」
亮輔は自分の弱さを悔やんだ。

自分はいつも梨緒に支えられてばかり。
そんな自分が嫌で理論で武装して、
強い気でいて、、、。
でもそれは弱さを見せるのが嫌で。
弱い自分を認めず祐介のせいにした。
本当は自分が悪いのに、、、。
両の目をつむり、悪い予感を払拭するように
額に結んだ手を移し、強く祈る。
「、、、俺の命を削ってもいい!、、、いや、俺の命を代わりに持って行ってくれていい!」
「だから、、、神様!、、、どうか、、、どうか、、、
梨緒だけは!」

どうしようもない。
こんな時に自分は何も出来ない無力さから、
「、、、、、助けてくれ、、、、、」
目は血が出そうな位ちからいっぱいつむり、
ずっと結んだ指は、真っ赤になる。

その時、、、部屋のドアを開ける音が、、、。
力強くつむった目を、
ゆっくり開けた亮輔の虚ろな視界に
ぼんやりと青い人影が見える。
「手術は終わりました、、、。」

青い人影の上の"手術中"のランプは消えていた。


祐介の手には木製のバットが握られている。
それは、普段は轟音を響かせながら素振りをする愛用のバット。
事故の後先生の指示で帰宅した祐介は、制服のまま
何をするわけでもなく、気付けばいつものように
木製バットを握っていた。

何千、何万、数え切れないほど振ってきたバット。
いつもは一心不乱に、握れば力が湧いたように振れる。
しかし、握ると感覚が蘇る。
ホームランを打った時の痺れ。
ピリピリとした掌を見ると思い出す。
大きく飛んだ打球、、、。

ガタガタと崩れるような音、、、。
木材から突き出る梨緒の腕、、、。
『お前の打った球で、、、!梨緒が、、、。』
祐介の開いた掌が震える。
目をつむっても、、、バットを握っても、、、
纏わり付くように消えない記憶。
「あああああああああああああああ!」
怒りと絶望が入り混じった。
行き場の無い思いでバットを地面に叩きつけた!

バキッ!
鈍い音を立て二つに折れたバット。
それは今までの全てが終わった。
祐介をそんな気持ちにさせた。
「、、、もう、、、わしは、、、バットを振らん。」
梨緒を傷付けてしまった自分への贖罪。

梨緒にも、亮輔にも合わせる顔がない。
そんな祐介の元へ、電話の子機を握ったまま、
慌てた様子で祐介の母親が声を掛ける。
「祐介!!、、、梨緒ちゃんが、、、!!」