トライアングル【最終章】連想(ツラナルオモイ)①-2


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祐介も思い出す。
小学校3年生。その日地域の子供会でボーリングに行く事になった。

ガコーン!
キャー!!
女子の黄色い声援の中心にいるのは亮輔。

すでに来る前から練習を重ねていた亮輔は
スマートなフォームで
ストライクやスペアーを何度か取っていく。
しかし祐介は、
ガタン!
文字盤には"ガーター"の文字。
「くそ!なんでじゃ!」
なかなか上手くいかない。

なにより、このボーリングが物語っているかのように
気性の荒さや元々人見知りでもあった為、
友達作りがうまくいっていなかった。
誰も祐介に見向きもしない。
「やっとれん!」
祐介はその場を抜けた。

自販機でジュースを買って、
自販機の横の椅子に腰掛け、
遠目でワイワイやっているみんなの姿をチラッと確認すると、
それを見ないように反対側の壁の方へ向きジュースを
プシュっと開け、ぐびっとひと飲みした。
別に友達がいらないわけじゃあなかった。
むしろ誰かに話しかけて欲しかった。
亮輔と梨緒はみんなに馴染んでいる。
「なんでわしだけ、、、。」
なんだか悲しくなる。

ジュースの飲む量だけがどんどん進む。
そんな祐介の背後から肩をチョンチョンと誰かが突付いてきた。
「、、、ん?」
祐介が振り返る。
そこには梨緒の姿。
「祐介!見て!」

ニカッと歯を見せ笑う梨緒。
そのまま祐介の腕を掴むと、強引に引っ張りボーリングのレーンまで連れて行く。
「いや、、、わしは、、、。」 
そんな祐介をレーンへポイッと捨てるように置き去りにする梨緒。
祐介は頭を掻きながら周りの目線を気にし、バツが悪そうにうつむき突っ立つ。
「ゆ〜う〜す〜け〜!」
その梨緒の呼びかけに梨緒の方を向くと、
身の丈に合わない大きなボールを両手で抱え、梨緒もレーンに立っていた。
「わたしは悪魔を倒すの!」

そう言いクルッとピンの方へ向き、両手でボールを持ったままヨチヨチぎこち無く歩く。
よく見ると、その球は誰かのと間違えたのか15ポンドの
重い球。

別のレーンの亮輔がそれに気付き梨緒に呼びかけようとする。
「梨緒、、、その球ちが、、、。」
そんな呼びかけも遅く、梨緒は両手で球を
「えい!」
と、前へ落とすように転がす。

その重みで前のめりにつんのめってストンと転ぶ。
ドン!ヨロヨロ、、、
力なくゆっくり転がる球。しかし、球はどんどん真ん中から逸れ、
コツンと撫でるように端の一本だけ倒した。

「く〜〜!何という強さ!」
その悔しがりに、
「プッ!ガハハハハ!」
祐介は思わず笑ってしまう。
「何がしたいんじゃ。」
笑いながらそう言い、梨緒のスコアを見るとガーターのオンパレード。

「わらうな〜〜!!わたしは負けないもん!」
ぷーっと真っ赤な頬を膨らませ両腕をバタバタされる梨緒。
「ハハハ、、、。」
そんな梨緒を見るとなんだかどうでもよくなってきた。
見るとこのレーンは自分の番で止まっている。
「、、、そういう事か、、、」
梨緒はどうやら自分を呼びに来てくれたらしい。

それでボーリングの楽しさを伝えようとでもしてくれたのか、、、?
それは分からないが、
<「やってやるわ!」
祐介もガッと球を鷲掴みにし、ピンに向かった。
祐介はボーリングが嫌いだった。 
あの白い奇妙な形をしたピン。
それが無言で祐介を見つめる人々に見えた。
周りの連中もそうだ。
祐介には何も話しかけてこず見つめるピンそのもの。
「うおおおお!悪魔!くらえや〜〜!」
そう言って持った球を思い切りドッヂボールのように
ぶん投げた。

ドン!ドン!とバウンドしながらレーンを横断する球。
その球は真っ直ぐ飛び、最後には転がって
ガコーン!
ピンの中央をぶち抜いた。

ガコガコ!踊るように跳ねるピン達。
そしてそれが静まり返る頃には、
『ストラーイク!』
機械の画面が軽快に声を出す。
「!!やったぞ梨緒!!悪魔を全部倒してやった!!」

隣のレーンの梨緒の元へ行き、両の拳をめいっぱい握り
踏ん張るように両手でガッツポーズで梨緒に喜びを表現する祐介。
「やったね!祐介!」
梨緒も両腕をバタバタさせながら喜ぶ。
それを見ていた一同がいきなりドッ!と湧く。
「アハハハハハハ!」
「何やってるの?2人とも!」
「っていうか今の祐介君の凄くない!?」
「祐介君むちゃくちゃ!」
「悪魔って、、、」

こうして祐介はこの後、笑いを取って一躍人気者に。
みんな祐介の事が嫌いなわけではなかった。
ただどう話し掛けたらいいか分からなかっただけ。
それはお互い様。


祐介は答える。
「《梨緒→天然》。わしは梨緒がおらなんだら友達おらなんだかもしれんの〜。」

亮輔は「まあ確かに」と、相づちをうちながら、
「しかしお前、《天然》って!悪口か?」
祐介を怪しいというような細い目つきで見つめる。
「いや!天然は褒め言葉じゃ!わしの中で最高の!!」
祐介は言葉足らずで何て表現したらいいか分からず、
そうとだけ答えた。
「、、、まあいい。じゃあ次は俺の番だな。
《梨緒→〇〇》」

トライアングル【最終章】連想(ツラナルオモイ)①-1


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「キーッ!」
"野球部"と書いてある部室の扉を開く。
窓から朝日が差し込み、眩しさで目を細めながらも、しかめっ面で部室の中を覗く。
開かれた雑誌、脱ぎ捨てられた服、バットやグローブが乱雑に散らかったいつもの部屋。
その中央、背もたれもない物が積まれた、机と化している長椅子の横に埋もれるように座っていた梨緒の姿は今はない。
「あ!おはよう!早いね。一番乗りだよ。」
そう今にも聞こえてきそうな。そんななんの変哲もない日常。
屈託のない笑顔の梨緒を思い出して、ついフッ!とうつむきながらも笑顔が溢れる亮輔。
その背後からポン!と、誰かに肩を軽く叩かれる。

力なく首だけ振り返る。
そこには同じく微笑の祐介の姿。
2人とも笑顔がどこか悲しげだ。



制服姿でいつもの通いなれた川沿いの堤防を
亮輔と祐介は2人で歩く。

「、、、。」
「、、、。」
お互い少しの間、沈黙が続く。
気まずいとかじゃない。
相手への憎悪でもない。
何かお互い想いにふけりながら帰路につく。
「、、、祐介。今まで悪かったな、、、。」
その静寂を始めに崩したのは亮輔だった。
「ああ、、、わしもすまなんだ、、、。」
祐介も力なく答える。
「、、、俺な、、、夢を見たんだ、、、。なんか梨緒に怒られた気がしたよ、、、。」
亮輔が反省したようにうつむきながら言う。
「、、、、、、、わしもじゃ。」
お互い違和感もなく、どこか分かっていたかのように受け答える。
「、、、。」
「、、、。」
またお互い黙り込む。
その口はグッと何かを我慢するようにへの字に曲がる。
その思いを振り払うように、また亮輔から言葉を発した。
「俺な、、、梨緒の事が好きだ!!」
それに負けじと祐介。
「、、、わしもじゃ!!、、、負けへんぞ!!」 
勝ち気な笑顔で亮輔に応戦した。
「よし!じゃあ祐介!連想ゲームだ!《梨緒→〇〇》」
思えば幼い頃からずっと3人でいた。
その思い出には常に3人の姿があった。



亮輔は思い出す。
それはあの時。小学4年生の亮輔と祐介が初めてバトミントンをした日。
亮輔は祐介に屈辱的大敗をした。

憐れむような目線の祐介に敗北を噛み締めていると、
「私も混ぜて〜〜♪」
梨緒がパタパタと手を羽ばたかせながらやってきた。

『替わって』というかのように亮輔のラケットを預かり、
「さぁ、来い!」
と、張り切って真っ直ぐ伸ばした右腕で
クルクル空中に円を描くように回しながら言った。
もちろん、亮輔が負けた相手。
不器用な祐介には手加減という言葉は無い為、
当然勝てるはずもない。
全く歯が立たず圧倒されているのにも関わらず
「く〜〜!」
悔しがりながらも
「まだまだ〜〜!」
楽しそうに梨緒は無邪気な笑顔で何度も挑む

それから亮輔にも戦いを挑み、
やられながらも、笑顔で楽しそうに。
「そんな梨緒の行動が負けた敗北感から立ち直らせてくれた。」
その場を明るくする空気。それが力になった


亮輔は答える。
「《梨緒→無邪気》。俺は梨緒に元気を貰った。」

うんうん。と、「納得!」というように笑顔で頷く祐介。
祐介も負けじと続ける。
「なら次はわしの番じゃな。《梨緒→〇〇》

トライアングル【第11章】盤石(ばんじゃく)⑤-3


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そこには女神専用の小ぶりの宇宙船。
中には頬を大きく腫らした女神が操縦桿を握っていた。
「よかろう!お前たちの力は認めてやろう。」

さらに拍車がかかってボロボロの女神が
いろんな痛みに耐えながら言う。
「しかし、これでさよならだ。」
ポチっと一つのボタンを押した。

ブーン!
小ぶりながら緑の光を小さく溜める女神の船。
どう見ても母船が溜めていたものと同じものだ。
小さくても部室棟一帯の自分たちを殺すほどの破壊力はあるだろう。
「〜〜〜!」
終わった。、、、
身体もボロボロ。
さすがにもう、、、
どうしようもない、、、
「もう、、、、無理じゃ、、、」
それを成す術なく見つめる祐介。

「祐介!!」
その祐介の目を覚まさせるように大きな亮輔の声がこだまする。

その亮輔の方を祐介が見る。
すると、少しは距離はあるものの先程いた木材の所とは違う、"部室棟"の辺りに戻って来ていた亮輔。
そう、亮輔は女神の生存を確認した時、祐介と同じように「終わった、、、」と一瞬思うも
祐介の足元近くに転がっていた
ある"もの"に気づき、走り込んでいた。
その"もの"とは、、、鉄製のバット。
亮輔が手に持っている球を存在が分かるように
お手玉のように軽くその場で投げる。

「そういう事か!!」
祐介が亮輔がお手玉している球が野球のボールと確認して
自分もそのバットを素早く手に取った。

「いくぞ!祐介!」
亮輔が思い切り振りかぶる。

「こおおおい!」
祐介が構える。

亮輔が重心を乗せて野球の球を
思い切り投げた!
「おりゃあ〜〜〜!!」

祐介めがけて真っ直ぐ飛んでくる球。
その球を
勢いを殺さないように
クルッと反転して

傷のある足を
グッと踏ん張り
打ち上げるように
祐介は打った。
「くらえや〜〜〜!!」
キーーーン!

大きな金属音と共に打ち上がる球。
亮輔の投球と祐介の打球の両方の力を乗せた球。
その軌道は、、、上空高く、、、
女神の船の中央に緑の光が集まった。
ちょうどそこへ
2人の想いを乗せた打球が突き刺さった。

「ハハハハハハ。」
勝利を確信したのか壊れたように戦内で笑う女神。
しかし、それは最後の笑いとなった。

ドカーーーーーン!
女神のレーザーがそのまま逆流し、大きな爆炎を上げて
花火のように女神の船が爆発した。

緑のレーザーの色や火花の赤やオレンジ。
黄色や銀色の混ざった粉々に散る宇宙船の破片。

大空に上がるそれは
勝利の印に上げられた花火に他ならなかった

足を痛めた祐介の元へ亮輔が駆け寄る。
2人は笑顔で見つめ合う。
「ナイスバッティング!」
「ナイスピッチング!」
そうして2人は喜びを分かち合うように
お互いを称えるように高くハイタッチした。

トライアングル【第11章】盤石(ばんじゃく)⑤-2

 

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女神が"部室棟"に到着する。
そこには"サッカー部"などの木の表札が下げされたドアが
いくつも並ぶコンテナのような小さい四角い建物が
混在していた。
ど〜こ〜へ〜い〜った〜〜。」
女神がその1つ目のコンテナに躊躇なくバズーカ砲を発射する。
ドーーン!
ドカーーン!
コンテナが音を上げて破裂するように飛び散る。
よく見るとコンテナとコンテナの間は間隔が空いており、
1つコンテナを吹き飛ばしても他のコンテナまで破壊することも煙で見えなくなる事もない。
このどれかのコンテナに隠れているとして、
順番に破壊すれば問題はない。
コンテナから出て逃げ出そうが、そこを機関銃で確実に仕留める。
「逃〜げ〜て〜も〜無〜駄〜だ〜〜〜!!」
ドーーン!
ドカーーン!
1つ目の煙が晴れたタイミングで隅々まで確認出来るよう地面に降り立ち、
ゆっくり歩きながら丁寧に1つ1つコンテナを破壊する。
『もし、1人を囮に逃げようとも、右手の機関銃で1人。左手のバズーカで1人仕留めてくれる。』
両手に最強の武器を携える女神。
女神の背後は今来たグラウンド。
"部室棟"は学校の敷地の端っこに位置する為、奥は壁。
逃げた所は、逃げ場のない袋のネズミ。
しかし、そのネズミ相手にも女神は気を抜かない。
ネズミ一匹の逃げ道すら見逃さない。
か〜く〜れ〜て〜も〜無〜駄〜だ〜〜〜!!」
心は冷静と思いつつもその狂気は言葉からヒシヒシと伝わる。
ドーーン!
ドカーーン!
そうこうしているうちに次々に破壊されるコンテナ。
逃げ場もどんどん奪われる。
コンテナも残り2つじゃ!」
ガチャ!そのコンテナの1つに女神が照準を合わせる。
その時、、、。
サクッ!
「!!」
一瞬何が起きたか分からなかった。
女神はバズーカを抱える肩に力が入らない事に気付く。
バズーカが重みでガタンと落ちる。
<b>見ると、その肩には一本の矢が突き刺さっていた。
「、、、弓矢!!?」
女神はそれが刺さり、血が出ている事を確認すると、飛んできたであろう方角を睨みつけた。</b>
そこには"弓道部"と書かれた木板のコンテナの前に
弓矢を射った亮輔の姿。

「とにかく"部室棟"に着いたら俺が隙きをくつ!」
2人が散り散りに逃げる前、亮輔は一言のみ祐介に助言していた。
"部室棟"にある何かで一矢報いる。
そこからどうするか。
逃げるにしても少しでも時間稼ぎがしたかった。
そんな亮輔の文字通りの一矢。
そんな一矢が女神のバズーカを奪った。
しかし、

!!、、、貴〜様〜〜〜!!」
女神はもう片方の腕の機関銃を亮輔に向けようと振りかぶる。
「や〜〜!!」
その女神を別方向から走ってきた祐介が
竹刀で叩き落とすように機関銃をもつ右手を狙う。
計画していたわけではない。
亮輔から「隙きをつく!」と、言われたから
逃げるわけでもなく、隙きを狙って自分も攻撃をしようと
竹刀を持って準備をしていた。
"面"のように大きく振りかぶった"小手"が女神の右手に
綺麗に決まり、
カタン
女神が機関銃を落とす。
しかし、怒りの女神の右腕はさらにすぐさま次の武器を
装備しようと金色に光りだす。
貴様から殺してやる!」
見下すように祐介を睨みつける女神。
"小手"を体重を乗せて思い切り打ち終わった祐介は
そのしゃがんだ体制のまま女神の威圧に押され
足がすくんで動けない。
女神の光に包まれた"何か"を祐介に向けた。

おら〜〜!!」
そんな隙に走り込んできていた亮輔が女神の顔面を
思い切り体重を乗せた赤の拳のグローブで
綺麗に捉えた。

「ぐお〜〜!!」
めり込むかのように女神の頰が亮輔の拳の形に変わる。

「食らいやがれ!!」
そのまま腕を思い切り振り抜いた。
バーーーン!
大きな殴る音と共に大きく吹き飛んだ女神
そのまま"部室棟"を抜け、
あの時、梨緒が下敷きにされた木材の山に
ガラガラガラーン!
と、音を立て突っ込んだ。
「よし!」
計画してたわけでは無かった。
ただガムシャラに近くに落ちていたもので祐介の危機を
救いたかった。
亮輔が手応えに歓喜の声を上げる。
祐介も竹刀を地面に置いて立ち上がった。
「が〜〜〜!!」
しかし、声を上げすぐしゃがみ込む祐介。
見ると足のふくらはぎの辺りから血が出ている
どうやらどこかで女神のマシンガンが当たったらしい。
それでも力を振り絞って
無理にダッシュをして
思い切り竹刀を打ち込んだ。
それほど無理をしてまで祐介が作った隙。
実は亮輔も銃弾によるかすり傷や爆発による火傷が多数ある。
満身創痍。
そして、なりよりも
無数に武器を出してくる女神に対して
唯一丸腰の亮輔たちが部室の道具で与えられたダメージ。
亮輔が恐る恐る木材の山に近づく。
「倒していてくれ、、、。」
グローブの拳をギュッと握り
警戒しながらゆっくり近づく。
これ以上何かされない為に倒せているかの確認。
いざという時の為のグローブ。
しかし、それ以外はほぼ丸腰。
次来たらひとたまりもない。
さすがに次は無理だ、、、。」
亮輔が木材の山を覗き込む。
大きな木材の山は木材同士の間に隙間がある。
その隙間から中がしっかりと確認出来た。
「!!」 
亮輔はしっかりそれを確認した。
「、、、いない!!」

「ハハハハハハ!」
同時に空からこだまする声。
それは"部室棟"の上空。
祐介の少し斜め上を見上げる空だった。

 

トライアングル【第11章】盤石(ばんじやく)⑤−1


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「貴〜様〜ら〜!!よくもやってくれたな〜〜!!」
平穏を切り裂くようにドスの効いた声がどこからかこだます。

2人はその聞き覚えのある声にムクッと身体をあげ、
「まさか!」とキョロキョロ辺りを見渡す。
どこから聞こえたのか!?広いグラウンドのどこにも人の気配はない。
地面には母船の影が映るだけで、、、
いや、母船はもうないはず!これは光に当たった大きな人影だ!
「!!」
2人は同時にゆっくり空を見上げる。
何もない青空が広がっていた、はずの空。
そこには青いドレス。
大きな青い瞳。透き通るような白い肌。
そう。女神だ!

その光を浴びた出で立ちは、
初めて見たときのように美しく、しかし、ドレスや肌には少し焦げた跡。
更に美しく華奢な出で立ちにそぐわない
不釣り合いに光る黒い影が、、、それは、、、
右肩にバズーカ。右肩から掛けて持っているのは機関銃。

「ヤバい!!」
2人は這い上がるように土手を両手両足で必死に上る。

「八つ裂きにしてくれる!!」
女神が機関銃を
ドドドドドド!と連発する。
 

チュンチュンチュン!と音を立てながら
2人の周りの土手の土や草が跳ね上がる。
土手を上がり頭を抱えながら逃げる2人。

「逃さん!!」
そこへ今度はドカーン! 
バズーカをお見舞いする。

「うわ〜〜〜〜!」
なんとか直撃は避けたものの前のめりに吹き飛ばされる2人。
ズサーっ!と地面を擦るように叩きつけられる亮輔。
勢いでゴロゴロと玉ころがしのように転がる祐介。
2人ともにダメージを食らいながらも
それでも必死に立ち上がる。
「やべ〜!とりあえずこんな見通しのいい所にいても恰好の的だ。姿を隠せる所まで行くぞ!」

亮輔が走り出しながら指を指す。
その指す先には校舎の箸にある"部室棟"。
それについて行くように祐介が走って横に並ぶ。
「亮輔!ここまで計算のうちか!?なんか考えはあるんか!?」
「、、、。」
亮輔は一瞬考えるも何も浮かばず。
「こんなん計算出来るか!!想定外だ!!」
とりあえず走るしかなかった。
バズーカに機関銃。
しかもこちらは無防備。能力もない。
そんな相手にどうやったって勝てるわけがない。

「とにかく逃げるぞ!」

巻き上がる煙から猛ダッシュで逃げる亮輔たちを女神が見つける。
まだ生きている。
「まだまだまだまだ!」
そこへ目がけて機関銃をドドドドドド!
さらに追い打ちをかけるようにバズーカをドカーン!

「、、、。」
女神が少し高く飛び上がり上空から状態を確認する。
煙は2人の姿を隠す。
女神はしっかりと目を凝らし安否を確認する。
このままがむしゃらに打ち続けてもいい。
しかし、それでは気が済まない。

ストレス解消なんて生ぬるい。
なにより逃げられてからの反撃。それでやられた仲間。
武器も能力も持っていない相手ですら
万に一つの可能性すら潰える。
確実に殺る。
女神の怒りのボルテージはマックスだ。

ブッとその煙から小さな2つの影が抜け出てくる。
「チッ!」
生きていたか。と、すぐにその姿を追い
機関銃を連発しながらスーパーマンのように頭を先にし
降下する。

ドドドドドド!
機関銃が降り注ぐ。
頭を隠しながらチラッと後ろの機関銃が降る方を見上げると
女神が銃を連打しながらミサイルのように真っ直ぐこちらに飛んで来ているのが見える。
「やばいぞ!思いっきり来とる!!」
焦り、全力で逃げる祐介。
"部室棟"はもう目の前。
「分かってる!とにかくあそこまで走れ!!」
亮輔も全力で走る。

女神が真っ直ぐ飛びながらミサイルの照準をしっかり合わせる。
2人の姿が照準に入る。
グッ!と引き金を引こうとした。
その時!2人はタイミングよく散り散りに逃げて行った。
「くそ!運のいいやつらじゃ!」

トライアングル【第11章】盤石(ばんじゃく)④


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ドーーーン!ドーーーン!
立て続けに大きな爆発音が2回、3回、、、。
亮輔達はまだ生きている。
その音は街を破壊する音ではない。

レーザーが街に落ちたわけではない。
亮輔達が目を覆っていた腕をゆっくり開け、
つい今の今まで緑の光を蓄えていた母船を見上げる。
ドーーーン!ドーーーン!
尚も爆発音を上げ
至るところから炎を上げるのは女神の母船の方だった。

どこかから援軍の攻撃が!?
いや、攻撃を受けてる感じはない。
よく見ると爆発している箇所から緑の光が漏れる。
レーザーが逆流して自爆??
何にしても町が攻撃を受ける前に女神の母船の方が
次々と爆発を起こしながら街の空からはけるように
墜落していく。

「、、、。」
晒された命の危険。街の危険が去っていくのを未だ息も出来ずに見上げる2人。
もう、攻撃は終わったんだ。
街を危機から救ったんだ。
女神の母船が確実に墜落していくのを確認する。
脅威が去ったんだ、、、
そう思った瞬間。
2人は腰が砕けたかのようにすぐ脇の芝生の土手にヘタりこんだ。

「、、、。」
さっきまでは母船で覆い隠されて見えなかった何もない空を2人は見上げる。
「終わったな、、、。」
祐介がボソリと呟く。
「、、、ああ、、、終わった。」
ようやく訪れた安息。

思えばこの一日ずっと落ち着く事は無かった。
色々な事が一度に起こりすぎて全てを覚えていられない位。
やっと緊張感から開放され、寝転んだまま力が出ない。
何も出来ない。
でもそれが少し心地よくも感じた。
「、、、しかし亮輔。女神がこのグラウンドに飛ばす事まで予想しとったんか?」
ふと祐介が空を見上げたまま呟く。
その言葉の意味は、飛行戦闘の前、
亮輔達が工場から飛び立つ時まで遡る。




それは工場の中、、、。
「俺に計画がある。」
亮輔は復活した祐介と梨緒を前に語り出す。

この能力。交互に使っていけば無敵のはずなんだ。倒されても墜落する前にすぐ次を連想すればいい。それで女神の船まで攻め込む。」
この計画に能力は不可欠。しかし相手の戦力、飛行性、母船の構造など
得体が知れない相手なだけに飛行戦闘での戦略は練れなかった。
しかし、この能力。それを扱う技術、知力がある。
どんな状況になろうと俺ならどうにか乗り越えれる!
いや乗り越えてみせる!
そう亮輔は自分に言い聞かせていた。
「攻め込んだら、まずは祐介が時間を稼いで欲しい。」
今まさに戦闘機に積込もうとしていた"武器"の箱を開けて
亮輔は祐介に言う。



母船に突っ込んだ後の母船内での行動はこうなっていた。
ドーーン!母船に突っ込んだ亮輔たちの戦闘機から、
まずは祐介だけが機関銃を持って飛び出る。
煙の中、亮輔の姿は宇宙人達には見えていなかった。



再び計画。
「その間、俺は母船のあちこちに出来るだけ多くこのタイマーを仕掛ける。」
亮輔がもう一つ積込もうとしていた箱を開ける。
「、、、時限爆弾?」
梨緒がその姿を見て言う。

「そう、これを仕掛けて女神の母船を内部から破壊するんだ。」
亮輔が爆弾を1つ手に取り得意げに言う。
「!!」
2人がその計画に、というよりも爆弾という恐ろしい兵器や発想を目の当たりにして驚く。
それにすぐさま梨緒が口を挟むように言う。
「いやいや!そんなの!あなた達も巻き込まれるじゃない!!」
爆弾とはそういうものだ。その場の物を吹き飛ばす。
ましてやこの計画は"母船に侵入して"、、、というもの。
その時亮輔たちは必ず母船の中にいる。

、、、だから時限性にしたのさ。まずおそらくこれだけの大きな母船だ。大分装甲も厚いだろう。一発、二発戦闘機のミサイルを当てたところでビクともしないだろうし、こちらがダメージを与えるより先に反撃されてしまうだろう。だから内部から破壊する。出来るだけ多く仕掛けるさ。」
「で、この後が計画が、分かれるんだけど、
①そのまま能力が使えれば、能力を使い、爆発前に脱出する。で、問題は、
②能力が使えない、又はなんらかのミスで捕まってしまった場合。」
祐介と梨緒が聞き入る。
「その時は女神の能力であえて飛ばされる。」



女神が心を読んだ時の『ヤジを飛ばすんじゃ!』
『女神を挑発しろ!』『もう少しだ!』
というのにはこういう意味があった。



「つまりは"女神の能力を利用して"時間以内に脱出するって事?」
梨緒が亮輔に問いかける。
亮輔が爆弾を手に持ったまま歩きながら見解を発表する。
「そう。正直こっちの方になる可能性の方が高いんだ。
女神の能力はおそらく"心を読んで"、"好きな物を飛ばせる"なんだ。
野球までの戦いやがそうであったように。梨緒からこの施設の情報を抜き出した事や関連情報でもそれは裏付けれる。」
祐介はすでについていけずぽかんと亮輔を見つめる。
「そして、ポイントはボクシング以降。今までなら一つ連想をすれば"場所"と"物"が両者共に作用されていた。」
「しかし、"ボクシング"からは違った。互い互いが能力を使い合う。その能力は相手には作用されない。」

「それはその後、女神が居なくなった後も続く。と言うことは、女神は"能力を譲渡"する事も出来るんだ。」
「その能力の違いに気付いた時、女神がいる時は女神の能力。いない時は譲渡された能力。違う作用が発動される、という仮説にたどり着いた。」
「だから女神の母船では女神の能力下に落ちる可能性が、高い。」
亮輔はその場で歩き回っていたのを止めると、祐介と梨緒の方へ向き直り、力強く演説した。
「だったらその能力を全て利用してやればいい!」
つまりは亮輔の作戦はこうだ。
まず、なんらかの方法で母船の内部に侵入する。
その後、祐介が武器を使って思い切り暴れて宇宙人の気を引いているうちに亮輔は母船のいたるところに爆弾を仕掛ける。
仕掛け終わった逃げる!のだが、能力が使えない事を考え、まず捕まる。
その後で女神の元まで連れて行かれるよう誘導して、
女神の元へ辿り着いたら女神のへの挑発を繰り返す。
その時、心を読ませて、焦らせ、どこかに飛ばされる。

「そして、時限爆弾の設定時間は今から2時間後!」
亮輔の語りを聞いていた祐介と梨緒が「あ!」と聞いた事があるフレーズにお互い見つめ合う。
「流石の爆弾も、出来るだけ多く設置するつもりだけど、それだけではあの空を覆い隠す程の母船の質量を落とすには破壊力が足りない。」
そう!女神がくれた情報
『2時間後にある街を破壊します』
状況をより絶望にしたといえるその情報すらも亮輔は利用しようと考えた。
「街を破壊すると明言した女神の母船の破壊力。2時間後。そのエネルギーが母船には溜められているはずだ。」
「その爆発的なエネルギーで内部から破壊してやればいい。」



つまりは全ては亮輔の計算のうちだった。
『女神が心が読めない』と、間違った推理をしたのも女神に心を読ませる為のフェイク。
「、、、まあ、飛ばされる事は分かっていたがこことはね。」

亮輔が苦笑いしながら言う。
「実際、ラッキーだったよ。梨緒を心配させないように言わなかったけど、逆上した女神に、マグマの中や深海に飛ばされる可能性もあったからな。」
祐介が驚いて根転がっていた身体を起こす。
「おいおい!そんな裏があったんか!無茶苦茶やないか!」
そんな祐介にフッと笑いかけ亮輔も答える。
「まあ、俺達が蒔いた種。勝つためにはリスクも必要だろ?」
今まで負けると分かった勝負には挑まなかった亮輔が自分を犠牲にしてでも勝つことに拘った。
そして祐介も、自分勝手で俺に付いてこればなんとかしてやる!そんな自分を捨て、勝つために亮輔に頼った。
勝利に拘った亮輔と協力して力を発揮した祐介。
今までにない2人の関係が勝利を導いた。

その亮輔の大胆さに祐介も思わず、
「ガハハハハ!違いない。」
豪快に大笑いして、もう一度大の字になって転がる。
「だろ?、、、ククク。」
亮輔も思わずつられ笑いする。
思えば何年ぶりだろう。
2人で笑いあったのは、、、。
「、、、。」
「、、、。」
一通り笑い終えると2人は少し黙り込んだ。
何もない青い空を見上げる。
清々しい風がなびく。
2人とも各々で過去の思い出を振り返っていた。
ずっと幼い頃から一緒にいる2人。
そういえば昔はこうやって笑い合っていた気がする、、、。
いつからだろう、、、。
いがみ合って争いだしたのは、、、。
そう思うと、祐介が口を開く。
「、、、亮輔、、、お前のそういう頭の良さ。優等生で周りにはいつも人が集まる。
そんなお前に憧れてたのかもしれん、、、。」

その祐介の言葉にあまりに考えていた事が同じでフッと笑ってしまい亮輔も答える。
「、、、俺もお前の、真っ直ぐで、常に注目を浴びて、周りがついつられて動いてしまう。
そんなお前に、あこ、、、」
そこまで言うと、急に恥ずかしくなり、鼻を掻きながら誤魔化す。
「嫌いじゃないぜ。」

「!!」
祐介はその返しに、ムクッと上半身を起こすと、
亮輔の頭をガシッと持ち、ワシャワシャと髪をかき乱す。
「この!素直じゃないのう!」
その顔は笑顔に満ちている。

トライアングル【第11章】盤石(ばんじゃく)③


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「女神様!報告です!侵入者2名!捕獲に成功しました!」
しばらくして女神に報告が入る。
やはり、イタチの最後っ屁。能力がない中での最後の足掻きだったであろう。

女神が抱えていた最後の不安が消え、安心する。
「ここに連れてまいれ!」
同時に未だ確認していない姿に、ホントに奴らだったのか。それが気になる。


カランカラン! 
滑車付きの牢屋が女神のいるコックピットの自動ドアを
ウィーン
と開け、くぐった。


カランカラン!
自動ドアを開け、兵士が滑車付きの牢屋を引いてくる。

「!!」
女神が確かに牢の中にいる2人を確認した。
「やあ!女神。久しぶりだね。」
亮輔があぐらをかき、不敵に笑いながら人差し指と中指だけを真っ直ぐ立て、額に当てると、
「よっ!」と、言うかのように女神にサインを送り
挨拶をかます

「離せや!出せや!」
その横で暴れていたからか亮輔よりも厳重に手も足も錠で繋がらた祐介が
イモムシのようにくねくね蠢きながら騒いでいる。

「、、、。」
確かに"あの"2人だった。
やっぱり、、、と、思う反面、
当初の計画では陥るはずではなかったこの状況に
女神は苦笑いしか出来なかった。 
それを察したように亮輔が言葉を発する。
「どうだ?ここまでやられた感想は??」
不敵な笑みは変わらず勝ち誇ったように言われた言葉に
「ハン!」と、女神は見下すように鼻で笑い
挑発的な笑みで答えた。
「まさかこんな事をしでかすとは思わなんだわ!能力を逆手に取るなんてのう!」
両者の間で火花のようなものが散り、緊張感が走る。

亮輔もその女神の言葉に「ハン!」というように返す。
「そもそも女神!あんたのこの計画は穴だらけだ!」
それに祐介がウネウネしながらチャチャをいれる。
「そうじゃ!言ったれ!亮輔!」
亮輔が腕を組んで語り出す。
「まずは"戦い"。"勝負のつけ方"。相手の好きな競技を好きなだけやらせる。それは逆を言えば満足したら終わり。いつ終わるかも分からない戦い。あんたの計画は"工場まで運ぶ"だったはずだ。その前に満足したら?逆にいきなり逆上して相手を殺してしまったら?
祐介が便乗して後ろから
「バーカ!バーカ!」
と、ヤジを飛ばす。
その態度にイラッとしながら女神が反論する。
「そうですね。しかし実際、徐々にエスカレートしていき、"工場"の機械を破壊出来ました。」
苛立ちながらも平然を装い、余裕の表情、笑顔を見せつける。

しかし、動じることなく亮輔も余裕の表情でまだ付け入る。
「確かに実際、俺らはまんまとあんたの計画どおり動いてしまった。しかし運もあったはずだ。あともう一つ。"工場の破壊"。これが出来なければこの"地球侵略"というのは成し得なかっただろう。しかしその方法が事故というのを利用したもの。これも穴だ。それは不確実な事で、例えば事故と見せかけて機械を破壊するにしても、自然を装うのであれば、工場のその場所に足を運ばなければそれは成立しなかった。」

亮輔に反論される度に余裕の女神の額に
血管が1つ、2つと浮き出る。
「そうじゃな。でも逆を言えば、いつでも"機械"は破壊できた。しかしそうしなかったのは、より自然を装う為。警戒させない為、、、。」
その女神の言葉に、さらに釘を指すように亮輔が被せる。

「そして何より、人間が能力を使って変化する様、苦しむ様が見たかったんだろ?楽しむ為のその行為!それがお前の計画の最大の穴だ!!
女神の表情がついに強ばる。亮輔が追い打ちをかけるように言葉を重ねる。
「"能力の譲渡"。これがあんたの計画の中心だ。」
あんたの能力はこうだ。①イメージしたものを出現させれる。②場所まで飛ばせる。これはあんたがその都度コスプレをしていた事、『場所を用意した』というフレーズにも合致する。」
女神が常に自分の思っているような格好をしていた事で
女神自身に①イメージしたものを出現させる能力がある事、
銃撃戦の前に『場所を用意した』と女神が発した直前にしか場所が変わらなかった事で、②場所まで移動させれる能力がある事、が証明される。
しかし、その能力をただ使うだけではあんたの言うように不自然極まりない。だから相手が思った事をさせる必要がある。そこで③能力の譲渡。
自分たちが自分たちで思ったものを出現させれるのは銃撃戦、飛行戦闘でも分かるように。
「相手に"能力を譲渡"する事で相手も能力が使えるようになる。それに合わせて自分も"ものを出現させる"。そうするとあたかもその空間そのものが相手が望んだ空間になったかのように錯覚する。」
「つまり、こんな3つの能力を重ねる事で魔法のような神がかった力を顕現できる。」
「しかし、この"能力の譲渡"というのは危険もはらんでいる。もしかしたらいきなり殺し合うかも、武器として自分に危害を加えられるかも分からない。だからあんたはあえて縛りをつけた。」
「『前の人の言葉の連想』と
。本来勝手に使えるはずの能力に縛りをつけることで、ある程度能力の範囲が絞られる。さらに、例題として"バレー"や"卓球"などを出す事によってスポーツなどから始めは軽いものになるように仕向けた。これで段階的に上がっていく算段が立てれる。能力のみならず言葉も巧みに考えられているよ。」
「、、、。」
女神は目を細め、口をへの字にして無言のまま亮輔を睨みつける。
「しかし、、、相手が何を考えているか分からない言。さらには"能力を譲渡する"危険をあえて、算段を立ててまで、あんたが楽しみたいが為に与えてしまった。何をしても大丈夫な能力を与えてしまった。それが今回のような相手に反撃のチャンスまで与えてしまい、結果!
多くを失う事になったんだ!

亮輔が煽るように言い捨てる。
背後では祐介の「バーカ!バーカ!」
それについに女神の怒りが心頭!ついに本性を表す。
「何が言いたい!!何がしたい!!?」
今まで作っていたような"女神"の声とは裏腹のドスの効いた低い声。

お!と少し驚いた表情を見せる亮輔。
これが本性か!と思い、女神が向ける鋭い眼光に負けない位の強い眼光で女神に対抗する。
「、、、。」
無言の睨み合い。
怒り心頭の女神に対し、亮輔には少し余裕も伺える。

「、、、。」
なぜ奴はこんなに余裕でいられるんじゃ?牢に入れられ、
敵に囲まれて、間もなく街は破壊されるというのに、、、
そこで、ふと女神が先程の亮輔の推理を思い出す。
実は亮輔の推理には間違いがあった。
"イメージしたものを出現される能力"、"場所まで飛ばせる能力".そして"能力の譲渡"。
それを合わせて神がかった能力を顕現。
さらには『相手が何を考えているか分からない』。
それらは亮輔や祐介の考えた事を"読んだ"のではなく
"被せた"。
つまりは女神は"心を読めた"訳ではない!

そう言わんばかりの推理。
「ハハン!」
女神が、分かったぞ!というかのように微笑む。
亮輔の余裕には裏がある。
まだ、何か計画を隠している。
そして、それはお前には読めるはずがない。
そんな余裕なんだと。
女神がゆっくり目を閉じる。
「!!」
亮輔がその行動に「なんだ?」と疑うように見つめる。
「、、、なるほどのう。」  
女神がニヤッと笑う。
「『バーカ!バーカ!もっとヤジを飛ばすんじゃ』。」
「!!」
驚いた祐介がヤジを止める。
目をつむったままの女神が更に続ける。
「どれどれ、、、次は、、、『女神を挑発するんだ』
『もう少しだ!』。」

「なるほどのう、、、。」 
女神が再びゆっくり目を開く。
その表情は先程とはうって変わって余裕な表情だ。
「!!」
亮輔もその女神の言葉の真意に気付く。
女神は心が読めた。
「何か狙っておるのう、、、時間稼ぎといったところか、、、それで余裕を決め込んでいたわけじゃな。」

そんな女神に一人の宇宙人が耳打ちをする。
女神が一度その宇宙人と目を合わせる内容を確認すると、
もう一度亮輔たちの方を見て、さらなる笑顔を見せる。
「そんなそなたらに悪い知らせじゃ。」
それは勝利を確信した笑顔。
「どうやら準備が出来たようじゃ。そなたらは時間を稼いで街への攻撃を遅らせる算段だったじゃろうが、それもここまでじゃ。」

そして、女神が右手を高らかに上げ、コックピット全体に響き渡るように号令を出した。
「攻撃!準備!!」
「!!」
亮輔と祐介が何も言えず無言でバタバタ暴れる。
「あともう一つ。」
女神がさらに亮輔たちの計画の確信をつく。
「『挑発して飛ばされて助かる』算段なんじゃろ?」
亮輔はギグっとする。
「確かに五月蠅いハエどもじゃ!望み通り飛ばしてやろう!」

 

そう女神が言った瞬間、亮輔たちの目の前の光景が変わった。
周りに牢屋はない。手や足に錠もない。そこは見慣れたグラウンド。
そして真上には、、、女神の母船。


「街もろとも消してくれるわ!!」
女神が高らかに上げた腕を振り下ろした。
「撃て!!!」


亮輔達の真上の母船の中心に緑の光がグーーーーンと集まる。
あと宇宙船の光のレーザー。
それも今度は超特大だ。
母船が集まった光で眩しく緑色に光る。
「来る!!」
亮輔達はそのまま、
身動きが取れないまま
眩しい光を遮るように目を隠しながらその場でしゃがみこんだ。
ドーーーン! 

辺りを大きな爆発音が包む。

トライアングル【第11章】盤石(ばんじゃく)②


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ドーン!
大きな母線に小さな衝撃が走る。
「女神様!敵機、本艦に衝突したもようです!」

もちろんこれだけ大きな船だ。
たかが小さな戦闘機が衝突した所でそこまでの損害はない。
もうこれで何も出来るはずもない。

しかし、そう思いながらもその小さな脅威がしっかり去ったかどうか。
それだけが女神の中でどこか不安だった。
「敵機撃墜を確認しろ!」


パラパラ、、、。
亮輔たちの戦闘機が突っ込んだ場所には大きな穴が空いていた。

それは母船からしたら戦闘機1個分の小さな穴。
モクモク煙が充満し戦闘機の存在は確認出来るものの2人の安否は分からない。
煙から見える戦闘機の影だけで両翼は折れ、もう飛行は不可能なのが分かる。
いや、まだ分からない!
「、、、。」
相手は化け物。駆けつけた宇宙人が複数人で銃を構え、
警戒しながら戦闘機に近づく。
「、、、。」
ゆっくりゆっくり。

「、、、」
いつ化けてでるかも分からない。
戦闘機も変形するかも、、、
「、、、」
足をするように、ひたり、ひたり、と慎重に。
「、、、」
煙に包まれた戦闘機のコックピットに近づく。

ドドドドドド!
そこへ煙の間を縫うように弾丸が飛び散る。

「!!」
一斉に散るように逃げる宇宙人達。

「ハハハハハハ!死ねや!死ねや!」
煙から出てきたのはマシンガンを持った祐介。

ドドドドドド!


「女神様!奴らの生存を確認!只今銃で応戦中。」
兵隊軍なら女神へ連絡が入る。
「、、、やはりか、、、念には念を用意していたな。」
女神がボソリと呟く。
そして軽快に指令を出した。
「船内全兵に告ぐ。侵入者を発見!ただちに全兵総動員で侵入者を捕獲せよ!!」
女神は思う。
「もうこれで大丈夫だろう。これだけの兵の数。」
「頼りだったはずの能力は先程解除してやった。」
「おそらく現在使用している銃などはあらかじめ積んであったものだろう。」
「そうそう長くは持つまい。これだけの兵力を相手に。」
「、、、出来るはずがない!!」



「オラオラオラオラ!」
祐介が機関銃をぶっ放す。
カチャッ!
その横に遅れてショットガンを持った亮輔が参戦する。
「、、、援護に来たぜ!祐介!」
ドーーン!

トライアングル【第11章】盤石(ばんじゃく)①

 

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モクモクとした煙が晴れた空にポツンと空いた空っぽの空間が
宇宙船の集まる中央に空いている。
その一番外側で陣取るリーダー格の宇宙人の宇宙船から笑い声が響く。
「ハハハハ!、、、勝ったぞ〜!」
それにつられるように、緊張で張り詰めていた宇宙人達にも安堵が漏れる。
「やったのか?!」
「、、、勝った。」
「流石、リーダー」
一手で戦局をひっくり返す。流石といえるリーダーの攻防に宇宙人一同、喜びの歓声をあげる。
このリーダーがいる限り無敵だ。どんな敵が現れようとも怖くない。

 

 

「ミスディレクションって知ってるか?」
そんなリーダーの宇宙人の機体の背後に亮輔達の戦闘機。
他の機体の一番外側に陣取って居るだけに誰も気づかない。
「何じゃそりゃ?」
祐介が興味なさそうに答える。
難しい言葉は特にどうでもいいようだ。
何より難しい言いまわさなくても祐介にはこの状況が理解出来ていた。


それは、集中攻撃を受けている最中、、、。
「とりあえず祐介!イメージを湧かせ続けろ!」
その攻撃に耐えるように、しりとりでもするかのように連想を繰り返す亮輔と祐介。
爆発で辺りが煙で覆われる。
その時!一つの連想をした

《『□□』→『戦闘機』=『F−22(ラプター)』》

F−22(ラプター)、、、鷹や鷲に代表
     される"猛禽類"を意味する名前の
     戦闘機。その鳥類の王ともいえる
     名前の通り、現在、存在する戦闘機   
     の中でズバ抜けた性能を誇る、
     最強の戦闘機。
     しかし、その最強と言われるには
     もう一つ理由がある。それは性能に
     プラスしてある"ステルス性"。 


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煙で視界がほとんどなくなる。そこで頼りになるのは視界ではなくレーダー。
レーダーで存在を確認しながら攻撃をするしかない。
しかし、このラプターの"ステルス性"はレーダーに映らない。
レーダーで確認していた宇宙人はレーダーから消えたもののあたかもそこに"いた"かのように認識している。
しかし、その間に煙に紛れて移動していた。
亮輔達の戦闘機のレーダーには宇宙人の機体位置は全部映っている。
それをもとに、慎重に、バレないように。
そして気付いた頃にはそこに亮輔たちの姿はない。
それは意識が、目が、"いた"であろう空間に釘付けになっていたから。
マジシャンが手の中の物を消す意識の盲点を
突いたマジックと同じ。
『ミスディレクション』それは"意識の外"。 

 

「ハハハハハ!」
勝ちを確信した宇宙人が知る由もなく高笑いする。

 

そこに全く気付いていない背後から機銃を連続でお見舞いした。
「正直、かなりヤバかったけど。性能でも劣って無かったって言う事だな。」
「お返しじゃ〜〜!!」
ドドドドドド!

 

ドドドドドド!と、攻撃の衝撃がリーダーの宇宙船の機体に伝わる。
「へ!?」
ドカーーン!
本人すらも訳が分からないまま、
リーダー格の宇宙船は撃沈した。

 

 

「女神様!報告です!Z号機がやられました!」
母船の管理室がざわめく。
「なに!?リーダーが!?」
余裕でインターネットの掲示板を眺めていた女神からついに笑みが消える。
リーダーが倒された事。それは一番の頼りを失った事。
レーダーに映る機体が何の決まりもなく散り散りに動き回る。


「化け物だ〜〜〜!!」
母船の下では統率を失った飛行部隊が
逃げるわけでも攻めるわけでもなく
とにかく動き回る。
大混乱。
それ程の出来事だった。


!?、、、相手はどこにおる!?相打ちにしては状況がおかしいじゃろ!」
女神が痺れを切らしてレーダーの映る管制モニターの前までフワッと飛んで降りてくる。
管制モニターを管理する宇宙人も訳が分からず首を傾げる。
貸してみろ!」
女神が管制モニターの通信ボタンを押し、マイクを握り呼びかけた。
「飛行部隊!そっちはどうなっておる!応答せよ!!」
ザーザーとノイズ音が走る。そして、一機から連絡が入る。

「、、、女神様!!リーダーがやられました!」
その声は焦りと動揺で揺れている。
「知っておる!まだ敵機は健在なのか!?」
女神が声を荒げて言う。
その横で別のレーダーを見ていたもう一人の管制官が騒ぎ出す。
「女神様!機体A−5、G−4!やられました、、、。」
「!!」
明らかに存在する敵機。
女神の顔にも困惑の色が隠せない。
そこへ通信が入る。
「、、、はい!まだ存在します。いや、存在するのか?
それが、、、レーダーに映らないんです。」
レーダーに映らない機体、、、女神が通信を返す。
「新しい敵機か!!」
管制官からはそんな報告は受けていない。
しかしそう考えるのが妥当だった。
「、、、いえ違います!いや、、、実際違うかどうかも分かりません。」
通信機からは混乱した声が溢れ出るように流れる。
「もう何が何だか、、、。」
「倒しても倒しても蘇る、、、。」
「機体も形も攻撃もどんどん変わる、、、。」
「レーダーにも映らない、、、。」
「居たと思ったら消える、、、。」
「もう、、、姿、形のない化け物としか思えません!」
それを聞いた管制室がざわめく。
「どういう事だ!?」
「倒しても倒しても蘇ってくるだと!?」
「姿形のない化け物?」
「いや、でも実際レーダーにその機体は映っていない!」
得体の知れない敵に、統率者を倒したその脅威に
母船中が震撼した。
しかし、その中で一人だけ口に手を当て、冷静に考え込む女神。
敵は一機、、、?倒しても蘇る、、、?
居たと思ったら消える、、、?
「まさかのう、、、」
女神は一つの仮説にたどりつく。


よし!とりあえず邪魔な敵機を蹴散らすぞ!」
亮輔がブンブン蝿のように飛ぶ宇宙船の中からめぼしいのを定め、背後を狙ってつく。
「まかせとけや!」
そこへ祐介がミサイル、機関銃と使い分け攻撃をかます
打って変わって統率の乱れた部隊はいとも簡単に仕留めれる。
しかし、仕留める事が一番ではない。
おそらくもう時間がない。とにかく周りの邪魔な敵機のみ蹴散らしたらすぐ母船を攻めるぞ!」
もう遊んではいられない。
一番の目的は母船の撃破。一刻も早く母船を撃破しなくては町が危ない。
敵機を倒しながらも母船の下に潜り込み弱点を探る。
その表情は焦りもみせながらもいつになく真剣だ。
「、、、そうでしたか、、、」
そんな2人の脳裏に再びあの聞き覚えのある声がこだました。
「!!」
「女神か!!」
辺りを見渡しても女神らしき姿は見当たらない。
おそらく母船の中からの声。女神の得意な直接脳に伝えてくるテレパシーのようなやつだ。
「やはりそうでしたか、、、」
女神のテレパシー。それはこちらからの声が向こうに届くかは分からない。
しかし、その声を聞いた瞬間、募った思いが祐介の中で爆発した。
「おい!出て来いや!女神!わしらを騙しおって!!」
何もない空間に罵声を浴びせる。
「、、、。」
それに触発されたのか。されてないのか。
聞こえているのか。いないのか。
無言の静けさから、ただ一言だけ返答が返ってきた。
「、、、おいたがすぎましたね。」
ガン!
それと同時に大きな音を立て、いきなり戦闘機の電気系統が全て落ちた。
「!!」
亮輔が操縦桿を前後に動かす。
戦闘機はピクリとも動かない。
操縦席にある目の前のスイッチをつけたり切ったり、
グチャグチャに全部のスイッチをいじってみる。
しかし全く動く気配すらない。
気付いた祐介も機関銃のトリガーを押してみる。
カチャカチャと空回りする音だけで依然なにも効果がない。
、、、まさか!」
亮輔が一つの事に気付く。
「祐介!連想だ!次の機体の連想をしろ!」
亮輔に言われて慌てて目をつむり、連想をする祐介。
「、、、。」
「、、、。」
「、、、駄目じゃ。」
先程まではすぐに連想した機体にチェンジしていた戦闘機が今回、ウンともスンとも言わない。
「どれだけ考えても変わらん、、、。」
祐介が残念そうに肩を落とす。
「くそ!」
亮輔が思い切り配電盤を叩く。
もちろん全く動く気配はない。
しかし、戦闘機は徐々にだが先程まで動いていた推進力で
母船へ近づいていた。
「、、、。」
亮輔は考えた。
真顔で近づく母船を見つめる。
もう、それしか思い浮かばなかった。
「、、、。」
後ろで祐介は尚もカチャカチャ動かない機関銃のトリガーを押している。
、、、祐介。仕方ない!」
「、、、なんじゃ?」
祐介のカチャカチャが止まり、前にいる亮輔の背中を見つめる。
「このまま突っ込むぞ!」
その号令で2人はその場で衝撃に備える為、キュッと頭を守るように丸まった。