トライアングル【最終章】連想(ツラナルオモイ)①-2


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祐介も思い出す。
小学校3年生。その日地域の子供会でボーリングに行く事になった。

ガコーン!
キャー!!
女子の黄色い声援の中心にいるのは亮輔。

すでに来る前から練習を重ねていた亮輔は
スマートなフォームで
ストライクやスペアーを何度か取っていく。
しかし祐介は、
ガタン!
文字盤には"ガーター"の文字。
「くそ!なんでじゃ!」
なかなか上手くいかない。

なにより、このボーリングが物語っているかのように
気性の荒さや元々人見知りでもあった為、
友達作りがうまくいっていなかった。
誰も祐介に見向きもしない。
「やっとれん!」
祐介はその場を抜けた。

自販機でジュースを買って、
自販機の横の椅子に腰掛け、
遠目でワイワイやっているみんなの姿をチラッと確認すると、
それを見ないように反対側の壁の方へ向きジュースを
プシュっと開け、ぐびっとひと飲みした。
別に友達がいらないわけじゃあなかった。
むしろ誰かに話しかけて欲しかった。
亮輔と梨緒はみんなに馴染んでいる。
「なんでわしだけ、、、。」
なんだか悲しくなる。

ジュースの飲む量だけがどんどん進む。
そんな祐介の背後から肩をチョンチョンと誰かが突付いてきた。
「、、、ん?」
祐介が振り返る。
そこには梨緒の姿。
「祐介!見て!」

ニカッと歯を見せ笑う梨緒。
そのまま祐介の腕を掴むと、強引に引っ張りボーリングのレーンまで連れて行く。
「いや、、、わしは、、、。」 
そんな祐介をレーンへポイッと捨てるように置き去りにする梨緒。
祐介は頭を掻きながら周りの目線を気にし、バツが悪そうにうつむき突っ立つ。
「ゆ〜う〜す〜け〜!」
その梨緒の呼びかけに梨緒の方を向くと、
身の丈に合わない大きなボールを両手で抱え、梨緒もレーンに立っていた。
「わたしは悪魔を倒すの!」

そう言いクルッとピンの方へ向き、両手でボールを持ったままヨチヨチぎこち無く歩く。
よく見ると、その球は誰かのと間違えたのか15ポンドの
重い球。

別のレーンの亮輔がそれに気付き梨緒に呼びかけようとする。
「梨緒、、、その球ちが、、、。」
そんな呼びかけも遅く、梨緒は両手で球を
「えい!」
と、前へ落とすように転がす。

その重みで前のめりにつんのめってストンと転ぶ。
ドン!ヨロヨロ、、、
力なくゆっくり転がる球。しかし、球はどんどん真ん中から逸れ、
コツンと撫でるように端の一本だけ倒した。

「く〜〜!何という強さ!」
その悔しがりに、
「プッ!ガハハハハ!」
祐介は思わず笑ってしまう。
「何がしたいんじゃ。」
笑いながらそう言い、梨緒のスコアを見るとガーターのオンパレード。

「わらうな〜〜!!わたしは負けないもん!」
ぷーっと真っ赤な頬を膨らませ両腕をバタバタされる梨緒。
「ハハハ、、、。」
そんな梨緒を見るとなんだかどうでもよくなってきた。
見るとこのレーンは自分の番で止まっている。
「、、、そういう事か、、、」
梨緒はどうやら自分を呼びに来てくれたらしい。

それでボーリングの楽しさを伝えようとでもしてくれたのか、、、?
それは分からないが、
<「やってやるわ!」
祐介もガッと球を鷲掴みにし、ピンに向かった。
祐介はボーリングが嫌いだった。 
あの白い奇妙な形をしたピン。
それが無言で祐介を見つめる人々に見えた。
周りの連中もそうだ。
祐介には何も話しかけてこず見つめるピンそのもの。
「うおおおお!悪魔!くらえや〜〜!」
そう言って持った球を思い切りドッヂボールのように
ぶん投げた。

ドン!ドン!とバウンドしながらレーンを横断する球。
その球は真っ直ぐ飛び、最後には転がって
ガコーン!
ピンの中央をぶち抜いた。

ガコガコ!踊るように跳ねるピン達。
そしてそれが静まり返る頃には、
『ストラーイク!』
機械の画面が軽快に声を出す。
「!!やったぞ梨緒!!悪魔を全部倒してやった!!」

隣のレーンの梨緒の元へ行き、両の拳をめいっぱい握り
踏ん張るように両手でガッツポーズで梨緒に喜びを表現する祐介。
「やったね!祐介!」
梨緒も両腕をバタバタさせながら喜ぶ。
それを見ていた一同がいきなりドッ!と湧く。
「アハハハハハハ!」
「何やってるの?2人とも!」
「っていうか今の祐介君の凄くない!?」
「祐介君むちゃくちゃ!」
「悪魔って、、、」

こうして祐介はこの後、笑いを取って一躍人気者に。
みんな祐介の事が嫌いなわけではなかった。
ただどう話し掛けたらいいか分からなかっただけ。
それはお互い様。


祐介は答える。
「《梨緒→天然》。わしは梨緒がおらなんだら友達おらなんだかもしれんの〜。」

亮輔は「まあ確かに」と、相づちをうちながら、
「しかしお前、《天然》って!悪口か?」
祐介を怪しいというような細い目つきで見つめる。
「いや!天然は褒め言葉じゃ!わしの中で最高の!!」
祐介は言葉足らずで何て表現したらいいか分からず、
そうとだけ答えた。
「、、、まあいい。じゃあ次は俺の番だな。
《梨緒→〇〇》」