トライアングル【第10章】起死回生⑤


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宇宙人はレーザーを発射してすぐ
亮輔たちのマシンガンの弾が届く前にすぐ真下へ移動。
少し上部に被弾するも辛くも躱して切っていた。

その場の浮遊からの上下左右の移動。
飛行性能の差が歴然となる。
モクモクと亮輔の戦闘機のあげる煙。
その前後にはちょうど光の境界線の光と闇。

その環境は亮輔たちには都合が良かった。
煙と光の明暗の目くらまし。その裏で、
戦闘機が爆炎を上げた刹那。亮輔は次のフォームにチェンジしすぐにエンジンを停止させていた。
推進力を失った戦闘機は墜落するように真下に落下する。

《『F−15 (イーグル)』→『戦闘機』=『零式艦上戦闘機』》


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「うお〜!落ちる〜!」
祐介が騒ぐ。

相手はまだ煙と明暗に意識を囚われる。

そして、エンジンをもう一度付けた時、、、
上空には宇宙人の機体の下部が見えた。
「これまでの飛行戦闘をして気付いた事がある。」

亮輔は戦闘機の向きを宇宙人の機体をしっかり捉えれる方へ傾ける。
「宇宙人の機体はその場で浮遊を可能とする事で上下左右自由に移動できる。しかし、、、」
P−40(ウォーフォーク)の時を思い出す。
「その場で躱せるが故に基本、機体の上下が変わらない。」
地球の戦闘機が機体の軸を中心にクルクル回転しながら飛行するのに対し、
宇宙人の機体はその場で浮遊して上下左右に移動する。
いわば地球で言うヘリコプターのような動きに近い。
「だからこそ、上部、下部から狙えば狙える面積が大きい。」
確かにウォーフォークや飛燕の時、上部からの狙い撃ち。これが圧倒的に撃破率が高かった。それは撃破してる側が一番理解していた。
それは飛行機の構造上、音速で飛ぶ飛行機は空気抵抗の問題で正面から見ると薄っぺらい作りをしている。
しかし、上部や下部から見ると、飛行を翼やプロペラの分だけ大きく見える。
「そして、下部はほぼ死角。」
相手の後ろが駄目なら下から。

しかもこれまでの戦闘の経験値から宇宙人の機体は上下からの攻撃に弱いと実証されていた。
「やるのう。亮輔。」
祐介が狙いを定めトリガーを持った。
「性能が劣っている戦闘、であれば相手のどれだけ先を読めるかだな。」
亮輔は祐介がしっかりと狙えるよう、真正面に機体が見えるように傾ける。
「決めろ!祐介!」
外すはずがない程、完璧にしっかりとレーダーに機体を捉え、
「まかせとけや!」
ドーン!ドーン!
ミサイルを発射した。

うっすらと煙が開ける。
「!!」
宇宙人がその中に戦闘機が無い事に気付く。
「どこだ!?」

と、意識した時には既にミサイルは発射されていた。
ピピピピ!
宇宙人の機体のレーダーがミサイルの接近する警戒音を出す。

レーダーによって、上部か下部からミサイルが飛んでくるのが分かる。
問題は上部か?下部か?ソナーのようなレーダーでは把握しきれない。
「左右に移動、、、いや、加速で逃げ切る!」
宇宙人の機体が前方へ加速。

しかし、気付くのが遅れた為、追尾するようなミサイルが宇宙人の機体を追い近づく。

ミサイルがクルッと曲がりながら宇宙人の機体に迫る。
「よし!」
宇宙人の機体にミサイルが接近、、、
「決まったな。」
と、思った、、、
「なに!!?」
亮輔と祐介は声を揃えて言葉にした。

当たった!と思った機体は突如その場から姿を消し、
ミサイルはそのまま何事も無かったかのように通過して行った。

「戦闘では相手のどれだけ先を読めるかだな。」
そうつぶやく宇宙人の機体はすでに亮輔達の戦闘機が遠くに小さく見える距離まで遠のいていた。
"瞬間移動"。女神がステージまで連れていってくれたように

戦いの武器が出現したように、
この宇宙人の機体も当然、瞬間移動の能力を秘めていた。
しかし、それを出さずまともに亮輔達とやり合っていた事。
それは、、、
「さあ、総攻撃だ!」

亮輔の戦闘機の周りにタイミングを見計らって集まってきた宇宙人の機体。
上下左右、前方後方、全て囲まれている。
すべては計算されていた。

一機で挑んできたのも、他の機の動きから気を逸らせるため。

宇宙人が他の機に出した指令はこうだった。
「全機各々地点へ。その後は敵機の動きを追いつつ移動。指示を出したら総攻撃に出る。」
初めから一機で攻めようとは考えていなかった。
この為の布石。
亮輔達はまんまと作戦にハマってしまったのだ。
「撃て!!」

この号令と共に囲んだ宇宙船が一斉に亮輔たちの戦闘機へ向け発泡した。
ビービービービー!
ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!
ひとたまりもなく亮輔たちの戦闘機は何度も爆炎をあげる。

「ヤバいぞ!亮輔!めっちゃ撃たれとる!!」
凄まじい爆発の衝撃と爆音と煙で
コックピットで出来るだけ小さく身体を丸める祐介。
「確かにこれはヤバい!とにかく連想だ!連想だけは絶やさず続けてくれ!!」
焦りと興奮で声を荒げながら、念仏のように思いつく戦闘機をひたすら連呼する亮輔。

祐介も負けないように追うようにひたすら連想を続ける。

「撃て撃て撃て撃て〜〜!!」
なおも宇宙人は号令を止めない。
「奴に回復する暇を与えるな!」
ドカーーンという音と煙。
その合間にピカピカと黄色い光が煙の間から見える。
宇宙人はレーダーを確認する。
まだレーダーには戦闘機が存在が示されている。
「まだだ!緩めるな!」
かつてないほどの煙が辺りに立ち込める。
しかし、宇宙人は集中し、煙の間から見える光。
そしてレーダーを確認し続けた。
「奴の回復力にも限界があるはずだ!」
味方の隣の宇宙船すら見えない程、煙が充満した。
その時、、、、
レーダーからついに亮輔たちの戦闘機の存在が消えた。

「やめ!!」
宇宙人が全機に告ぐ。
一斉に四方八方から降り注いでいた攻撃が止む。
再度煙の中を穴が開くほど凝視する。
煙からパラパラと音を立てながら破片が散り、
遥か下界へ落ちていく。
視界も少しずつだが良好へ向かう。
じっと動向を伺う。
本当に倒したのか、、、?
いつ復活して攻撃してくるかも分からない。
気を抜かず見守る。
この宇宙人がリーダーとなったのは亮輔達を圧倒した飛行技術はもちろん、
人をまとめる"統率能力"、ついて行こうと思わせる"人格"、
そして、、、
この神経質なほどの"慎重さ"。

それは今までの修羅場を潜ってきた経験値とも言える。
危機能力、管理能力全てが揃ったこの宇宙人が率いる飛行部隊は無敵であった。
そんな部隊を相手に一機で挑んで敵うわけがない、、、。
そう物語るように
煙の晴れた空間には空っぽの空しか存在しなかった。

「、、、ハハ、、、。」
宇宙人が込み上げるように笑い出す。
「ハハ、、、ハハハ、、、。」
「勝った!、、、勝ったぞ!!」
冷静沈着なリーダーが取り乱すほど、
喜びがあふれるほど
亮輔達はこの完璧な部隊を苦しめる強敵であった。

トライアングル【第10章】起死回生④


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「、、、。」
亮輔達の戦闘機があげる爆炎を眺めながら宇宙人も考えていた。
まるで"鷹"が獲物を捕らえるような、高速の縦移動
優雅に空を舞う"燕"のような横移動。
そして、直進で向かってくる勇敢さで自分の機体に損傷を追わせた。
そのバリエーションの多さは驚異であった。
「次はどう来る?」

煙が開ける、、、
そこに堂々と現れたのはF−15(イーグル)。

《『三式戦闘機「飛燕」』→『戦闘機』=『F−15(イーグル)』》

F−15(イーグル)、、、アメリカの力の象徴
     である国鳥「鷲(わし)」の
     名前がつくこの機体は、
     その名にふさわしく、かつて速度、 
     運動性、上昇性、ミサイル性全て
     において最高と言われた戦闘機。
     未だ空中戦における被撃破記録は
     ない。


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「負けてなお真っ向勝負とはやるのう!」
祐介が亮輔に言う。

「、、、いや、今回のは最高と言われた機体。性能が違うんだよ。」
真剣な眼差しで相手を睨みつせながら言った。
「それに、、、」
そして、グッと操縦桿は押す。
「ゲーム仕込みの腕には自信があるんだ!」

また向かい合った真正面からの勝負が始まる。
今度は宇宙人も機体を加速し始める。
その場で構えていても次は恐らく対処される。
相手は数多の手を持つ強敵!
そう宇宙人も感じていた。
「回避だけではなく、攻めねば勝てぬ。」

相手との距離が縮まる。
「オラオラオラオラ!」
初めに手を出したのは亮輔たち。
ドドドドドド!
機関銃を連射しながらそのまま相手から逸れるように急上昇。

宇宙人はその機関銃を避けるように下降。
すぐに機体を上に向きなおらせながら相手の位置を確認する。
亮輔達の戦闘機はもう高くまで上昇している。
「また、あの急降下か!させん!」

上昇した亮輔たちはすぐにジェットコースターに乗っているかのように急降下。
内臓が浮き上がるような重力が亮輔達を襲う。
しかし、怯まず尚も操縦桿を下降に向ける。

宇宙人はそれに気付いたかのように上昇。
「そうやすやすと上は取らせん!」
上昇しながらもビー!ビーと、レーザーを放つ。

「飛行戦闘のセオリーは相手の背後を取ること。」
亮輔たちは攻撃を躱しながらも
戦闘機の向きを上下変えながら宇宙人の機体の背後に回りこもうとする。

宇宙人も同じように亮輔の戦闘機の後を追う。
お互いがお互いの背後を追う。

お互いが上昇、下降と同じ動きをしている為、
まるで同じ軌道にいる衛星のように
一定の距離を保ったまま同じ孤を描きまわる。
横に旋回。すると相手も横に旋回。
斜めに上昇。すると相手も斜めに上昇。
お互いが相手が視野に入った瞬間に攻撃をする。
<いたちごっこのような鏡の中を相手にしているような攻防。
しかし、それでも気を抜けば相手に背後を取られるのは必至。
どちらが背後を取るか。
技術と駆け引きが周回する。
だんだん今上を向いてるのか、下を向いてるのか、
どちらが空でどちらが地面かさえ分からなくなってくる。

急な上昇や下降によるG。旋回による遠心力で
三半規管がやられていくのがわかる。
感覚や集中力が鈍り、めまいもしだしてきた。
相手はどうであろう?しかし、一つ言えるのは
「このままではヤバい。」
相手が宇宙人である以上、こちらの常識は通じない。
相手はこの状況には慣れている!そう判断した方が妥当。
だとしたら、やる事は、、、
亮輔は急旋回し、相手に背を向けるようにその場を逃げるような離脱した。

もちろん宇宙人はこの好機を逃がす訳がない。
すぐに自分も旋回をすると亮輔達を追うように背後に
ぴったりとつく。

「後ろを取られたぞ!亮輔!!」
後ろを振り返り、迫りくる機体に祐介は慌てながら報告する。

ピーピー
ここぞとばかりに宇宙人はレーザーを放つ。

「来た!緑のビーム来たぞ!」
祐介が焦り亮輔の肩をポンポン叩く。

「分かった!分かった!どっちから来てる!?」
亮輔は速度を加速させながら祐介に問う。
祐介はすぐに確認する。
「右じゃ!右!」
「よし!分かった!」
報告を聞くと、伝わったようで
すぐ左の翼を上に戦闘機を傾ける。
ピーピー
そのすぐ下を間一髪でレーザーが通過する。
「よし!」
すぐに戦闘機を元の水平に戻し保つ。
「祐介!とりあえずこのまま走る!相手の動きを報告してくれ!」
 
ピーピー
宇宙人も亮輔達に追いつこうとレーザーを放ちながら加速をする。
右へ左へ。
レーザーを打ち込むが戦闘機に機体を傾けながら巧みに躱される。

気付けばせっかく中央付近まで攻めていた母船の下から抜け出しそうな所まで追いやられていた。
宇宙人はどこまで追っていくるのか。

宇宙人も母船の端まで来ている事に気付く。
母船の陰になっている部分の境界線のように光が差し込んでいる。
追うべきか、、、追わないべきか、、、
答えは既に出ていた。
「脅威は潰す。」

「まだ来とるぞ!」
祐介が宇宙人がまだ追って来ている事を確認。

始めに亮輔達の戦闘機がその光の境界線に吸い込まれるように消えていく。
それを真後ろからすぐ追う宇宙人の機体。
機体が光の境界線を越える。

「!」
一瞬暗がりからの光で眩しく目がくらむ。
と、その瞬間。
目の前に亮輔達の戦闘機の後部が接近してくる。
「まずい!ぶつかる!」

宇宙人は一気に機体を減速される。
しかし、目が眩んだ事で一瞬の判断が遅れた。
もうすでに減速をしていた亮輔達の戦闘機は
ぶつかる!と思いきや少し上昇をし、
宇宙人の機体の上部スレスレを減速しながら通過していく。
そう!これを狙っていた。
減速した戦闘機は
真っ直ぐ後退し、
そして、着いた先は、、、

亮輔の戦闘機の目の前に宇宙人の機体の後部が見えた。
ついに背後を取った!
「もらった!!」
祐介がトリガーを握ろうとした。

「!!」

「させん!」
しかし、宇宙人はその場でバレリーナのようにクルッと旋回して見せた。

「その場で旋回出来るのか!」
<そして両者目の前で機関銃、レーザーの応酬。
ドドドドドド!

ビビビビビ!
タイミングはほぼ同時。しかもこの距離。

ドカーーン!
亮輔達の戦闘機は躱せるはずがなかった。

トライアングル【第10章】起死回生③-2


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「お!?何か散りだしたぞ!」
母船の下に群がるように固まっていた宇宙船達が散り散りに逃げるように母船の下から離れていく。
母船のボディーはがら空き。
たまらず逃げたのか?何か作戦でもあるのか?
しかし、どんな策を練られていようとも亮輔達には
考えている程、余裕は無かった。
散っていった宇宙船を追っていっても仕方ない。
何にしても目的は女神を倒す事。
この母船を落とす事。
それであればこのボディーががら空きの今こそ好機!
「祐介!行くぞ!」
どんな作戦で来るのか?逃げただけならそれで良し。
母船の下の陰にゆっくり入り込む亮輔たち。
周りを警戒しつつ、母船を詮索する。
「俺たちは無敵モードだ。しかしこの大きな母船を撃ち落とすにはどうやっても火力が足りなすぎる。」
亮輔たちの戦闘機は女神の母船と比べると米粒ほどに小さい。

そんな歴然とした差で攻撃した所でダメージはたかが知れているだろう。
もし、無敵モードで復活して攻撃を続けても明らかに撃ち落とすまでの時間は足りない。
さらにこういう戦闘の要になる母線というのは大概
撃ち落とされないように他より装甲が厚くなっているもんだ。
「そこで探らなければいけないのが相手の弱点。」
しかし、それでも宇宙船の出入りやミサイルの発射口など
は基本、船内と繋がっているはず。
亮輔はそれを探していた。
亮輔はこう考える。
「時間の許す限りまず相手の宇宙船を破壊しながらその出入り口やミサイル口を探す。」
「それでも見つからなかった場合、最悪、街を破壊しようとする際は必ず攻撃を仕掛けてくるはずだ。そこを攻撃する。
」 
「しかし、それでも母船を落とせなかった場合。町はなくなる、、、。ギリギリを狙うだけリスクは高い。」
「それまでには何とか他の方法を探し出したい。」
急にシリアスになり静まり返る機内。
母船の下を舐めるように2人で見上げる。
スポットライトのような白い丸い光。
所々血管のように走る赤い電飾。
鉄のような鉛のような色の外見。
丸い大きな円盤の下は、SF映画さながらの近未来空間が
広がっている。
明らかに地球より進んだ技術。圧倒的なスケール。
見ているだけでつい息を飲んでしまい、「こんなのに本当に勝てるのか?」
と、弱気にさえなってしまいそうだ。

不安に駆られているとその不安を煽るように
ピピッ!という音が機内を走る。

「!!」
あまりのスケールの大きさに圧倒されていた。
気付けばレーダーの亮輔たちの射程の少し離れた外に、1機敵機が近づいてきている。
すぐにレーダーの印が示す位置を肉眼で目視で確認する。
そこには確かに敵機。しかも堂々と1機のみ。
しかし、先ほどまでの宇宙船とは色も形も違う。
纏う雰囲気は只者ではない。

明らかに存在感が違う。
「中ボスのお出ましってとこかの〜。」
祐介はトリガーをしっかりと握り照準を敵機に合わせる。
「どうやらあいつを倒さないと進めないらしいな。」
亮輔も操縦桿をギュッと握る。

戦闘機のスピードはグッと減速させ、ゆっくりと間合いを測りながら相手の出方を伺う。
まだ相手は静止したまま動かない。
おそらく相手もこちらの動きを探っているに違いない。
操縦桿を握る亮輔の掌には緊張でうっすらと汗が浮かぶ。
チラッとレーダーを見る。
もうすぐこちらの間合いに奴が入る。
相手の間合いがどこまでか分からない。
いつ攻撃が始まるかの緊張感。

祐介もいつでもイケるように機銃のトリガーを常に握る。
目視、レーダーに目を凝らす。
レーダーの敵機の点滅が三重丸で示す円の一番外側の射程に入った。
その瞬間!
「いくぞ〜〜〜!」
最初に仕掛けたのは亮輔達。

操縦桿を前に押し、一気に加速。
「くらえや〜〜!!」
同時に祐介も機関銃をグッとお見舞いした。
ドドドドドド!
機関銃の球を連続で発射し続けながら加速する戦闘機。

それに気付いたのか相手の宇宙船も全力で緑のレーザーを打ち込んでくる。

両者とも濃密な攻撃が相手を襲う。
弾が当たるギリギリまでお互い真正面から攻撃を打ち続ける。
我慢比べのような攻防。

ギリギリまで相手が動くのを待つ。
当たる!当たらない!
「!!」
我慢し切れず亮輔が操縦桿を大きく左へ切った。

「!!」
それとほぼ同時に宇宙人も大きく舵を切った。
交錯するようにスレスレで両者が空中ですれ違う。

「〜〜!!」
亮輔たちの戦闘機に特に異変はない。

「〜〜!!」
宇宙人の機体の羽に、少し弾が当たったのか
小さな1つの穴からピリピリ電気が飛び出る。

「〜〜くそ!!」
亮輔はすでに勝敗が分かっていた。
ドカーーン!
大きな爆炎を上げて散ったのは亮輔達の戦闘機の方。

その勝敗を決したのは、、、。

ドドドドドド、、、
亮輔たちの弾丸が宇宙人の機体を襲う。
ピーピーピー
宇宙人の光線が亮輔たちの戦闘機を襲う。
当たる!当たらない!
お互いがお互いの動きを探っていた。
そして、、、
「!!」
相手が動いた瞬間、同時に操縦桿を切った。
その差が出たのは、、、
お互いの弾が当たる瞬間、、、。
亮輔達の戦闘機は弾に向かい進行方向に進み続け、
宇宙人の機体はその場から真横に避けられた。
機体の性能の差。

地球の飛行機は基本、エンジンの爆発による推進力で
飛んでいる。
その為、真横にへの旋回が不可能である。
しかし、宇宙人の機体ではヘリコプターのように浮いている為、その場で旋回して移動する事が可能な為、
回避能力が断然に優れていた。
「回避能力はあちかが上手か、、、」
亮輔が考え込む。

トライアングル【第10章】起死回生③-1


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「何だ!?どうなった!?」
別の宇宙船の宇宙人が爆発した味方の機体を確認する。
しかし周りに敵の機体が存在しない。
「?」
レーダーを確認する。
敵機の印が自機の印と重なっているように見える。
「なんだこれ?」
レーダーがおかしくなったのか?と、指でコンコンつつく。
ピュンピュン!
そんな機内に銃声が鳴り響いた。
「へ?」 
ドカーーン!

「くそ!奴はどこだ!?」
「奴を倒せ!!」
宇宙人の機体同士の通信が騒がしく交錯しだす。
「奴は上下の動きでレーダーを撹乱してくる!目で捉えろ!!」

宇宙船の数機が上空に飛び上がった亮輔たちの戦闘機を
目で捉える。
逆光であるが確かにそこに存在する。
「よし!見つけた!!」
「言っても奴の動きは直線だ!そのまま奴の軌道に狙いを定めて打ち落とせ!!」
宇宙船の数機が一斉に亮輔たちの機体に狙いを定め、
ミサイルを放つ。

ドン!ドン!ドン!ドン!

放たれたミサイルが真っ直ぐ亮輔たちの機体に近づく。

「よし!」
確実に先ほどのように急降下してきている。
直撃は免れない。
、、、そのはずだった。
「なに!!?」
真っ直ぐ急降下してきていた機体がミサイルが当たる直前!
急にヒラヒラと右に回転しながら旋回。
そのまま飛んできたミサイルを優雅に躱してみせた。

「三戦闘機『飛燕』じゃ!」
祐介がトリガーを握って言う。

《『P−40(ウォーフォーク)』→『戦闘機』=『三式戦闘機「飛燕」』》

三式戦闘機「飛燕」、、、機銃を備えた火力
     と飛行性能を備えた戦闘機。
     連合軍の愛称は「トニー」。
     その軽快に飛ぶ姿は
     空を舞う燕のよう。


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「『その軽妙俊敏性はあたかも青空を飛ぶ燕のよう』ってか。確かに連合軍にはない軽快さがあるな。」
亮輔が操縦桿を握りながら上下逆さまで言う。
「祐介!やってやれ!!」
祐介がそんな亮輔の後部の座席でニッタリ笑う。
「ハッハッハ!雨のお返しじゃ!!」

カチャッ!
祐介がトリガーを握ると同時に戦闘機に備えられた機関砲から弾丸が降り注いだ。

ドドドドドドドドド!
上空から降り注ぐ機関銃の雨。
「うわっ!」
宇宙人は思わず宇宙船内で雨を避けるように
頭を隠してしまう。
ドカーーン!

ドカーーン!
ドカーーン!
ドカーーン!
次々と宇宙船は爆発と共に墜落していく。
「くそ!このままでは埒が明かない、、、」
それまで遠くで見ていたリーダー格のような型の違う宇宙船に乗った宇宙人がついに痺れを切らす。

そして通信機のボタンで宇宙船全機に指令を出した。
「全機に告ぐ。これから飛行隊を複数の部隊に編成する。現在のポイントAにいる機体を"A"、ポイントGにいる部隊を"G"、ポイントFにいる機体を"F"というように。
それぞれが、これから私の指示どおり動くように。」

トライアングル【第10章】起死回生②


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時は現在。
ミサイルが直撃した戦闘機。
そう!その時!

《『治す』→『直す』=『戦闘機へ』》

で、壊れた戦闘機を直した亮輔と祐介は戦闘機で
女神の宇宙船へ向かったのだ。
「亮輔〜〜!!どうするんじゃ〜〜!!」
ミサイルが当たったところから煙を上げる戦闘機。
騒ぐ祐介。
その中で亮輔は冷静だった。
「見てろって!」
そして連想をする。

《『戦闘機』→『F−4(ファントム)Ⅱ』》

金色の光に包まれて。
そして現れた時には違う姿に形を変えて復活を遂げる。

F−4(ファントム)Ⅱ、、、アメリカ合衆国     
    マクドネル
    が開発した艦上戦闘機


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そう!亮輔が考えた可能性。それは女神の力の利用。
その連想の能力による戦闘機のフォームチェンジ。
やられても連想をする限り復活する。

それはまさに。
「俺たちは無敵モードだ!」




「女神様!4機撃沈。次々やられております!!」
モニターを見ていた宇宙人が慌てて女神に報告する。
掲示板を食い入るように見ていた女神が「は?」
と、いうような表情を浮かべ、
「1機ごときに何をモタモタしておる!!なんとかせんか!!」
宇宙人に罵声を浴びせる。
「は!!」



ドーーーーン!
「命中!!」
さらに1機を片付け、祐介が興奮するように声を上げる。

「よし!次!!」
亮輔が慣れた手つきで反転して戦闘機の方向を変える。
すると宇宙船の母船の下に撃墜して残り数機しか居なくなっていたはずの宇宙船が
どんどん母船から産まれるように増えていく

「げ!」
その数はゆうに30を超えている。
「女神も本気じゃのう、、、。」
しかし5機撃墜した2人には余裕があった。
操縦も慣れてきた。攻撃も出来るようになった。
そしてこの能力。撃墜されてもすぐに回復できる。
30だろうが40だろうが関係ない。
無敵モードだ!

「よし!祐介!行くぞ!!」
亮輔は思い切り操縦桿のレバーを引き加速。
グングン戦闘機のスピードは上がる。
それに気づいたのか前方からは30機以上の宇宙船が
一斉に緑のレーザーのような光線を放ってくる。

雨のように打ち込まれる光線。
しかし、そんなのはすでに経験済みだった。
「こんなものマシンガンと思えば粗いぜ!」
亮輔が軽快に光線の合間を縫って機体を真横に何度も傾けかわしていく。
その針に糸を通すような集中力は亮輔の感覚を研ぎ澄まさせ、今、亮輔には光線と光線の間の安全な"道"がはっきりと浮かんで見えていた。
その道を的確に狂いもなく通る亮輔。
「根に持つなんて女々しいのう。わしなんて殺されたんじゃぞ!」
考えてみると一緒に戦闘機に乗って戦っている事自体不思議だ。
しかしあの時、施設で回復した祐介は梨緒から説明を受け、
亮輔同様に罪悪感にかられた。
あれだけ争い、憎しみ、殺し合い、、、。
しかし、そんな事よりも今は自分達の街を守りたかった。

祐介のモニターこ射程盤が緑の"TARGET"という文字を
標し出す。
「堕ちろや〜!」
亮輔が機体を斜めに傾け、祐介がミサイルを発射した。

緑の光線を無数に放ちながら水平飛行でその場に滞在していた宇宙人の宇宙船。
その中の1機の操縦士が自分の機体に迫るミサイルに気付く。
「まずい!」
慌てた様子で言葉を放ちながら操縦桿を上下に動かす。
ゴン!
しかし、30機以上密集した空間。逃げようにも上下の戦闘機が邪魔して身動きが取れない。
焦りで操縦桿を揺らしながら見えもしない天井や床、
背後にゴンゴン当たる方を見てしまう。
「!!」
もう一度確認する。ミサイルは目の前まで来ていた。
ドカーーン!!

「よし!」
身動きも取れずに綺麗に命中したミサイル。
飛び交うレーザーを躱して敵を撃ち落とす。
それはあたかもインベーダーゲームをしているかのように思えた。
「次じゃ!どんどん行ったれ!」

ドカーーン!
ドカーーン!
1機2機と、周りの宇宙人の宇宙船が爆発音と爆炎を上げて散っていく。
「撃て!撃て〜!」
焦るように手当たり次第、全機から光線が出される。
先ほどよりも光線の密度が増す。
そして、、、
ドーーン!
ついにヒラヒラ躱していた亮輔たちの戦闘機を1つの光線が貫いた。

「よっしゃ!やったぞ!」
歓喜の声を上げる。しかし、それはすぐに一変する。
「なぜだ!!?」
煙の中から現れたのは先ほどとはまた姿を変えた戦闘機。

《『F−4(ファントム)』→『戦闘機』=『一式戦闘機 隼(はやぶさ)』》

一式戦闘機「隼」、、、第二次世界大戦時に
       大日本帝国
       陸軍の代表的な戦闘機。
       連合軍の愛称は
      「オスカー」として知られる。


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「ガハハハハ!やっぱり男なら日本軍の戦闘機じゃろ!」
「なんて言っても<『隼』じゃぞ!変な訳の分からん横文字とは違うわい!!」
祐介が得意げに言い放つ。
英語を横文字っていうバカさ加減がお前らしいわ!もう少し博をつけてらどうだ?」
それに対し亮輔が冷めた感じで答える。
「なんじゃと!!」
祐介は亮輔の背後の座席から身を乗り出して出ている首を絞めるように掴みかかる。
「グエッ!やめろ!祐介!!」
掴まれた手を首から解こうと亮輔は両手の指を掌にひっかける。
両手を離した事で操縦桿が左右にブレ、それは相手から見てもあからさまに集中の欠けた動き。
そのまるでじゃれ合うような悶着は格好の的であった。
ドカーーン!!
「ぐあ〜〜!!」
集中力の切れた2人にはまったくミサイルが視野に入らなかった。

余裕で命中したミサイル。
墜落する寸前の全く前の見えない煙の中、
亮輔が祐介に言い聞かせる。
「祐介!集中しようぜ!」
祐介も亮輔に言い聞かせる。

「そうじゃぞ!わしらには時間がないんじゃ!」
そう!こんな悶着をしている場合ではない。
そうこうしている間にも街の危機は迫ってきているのだ。
「祐介!本気を出すぞ!しっかり狙えよ!」
亮輔がしっかり操縦桿を握る。
「誰に言っとるんじゃ!一気に片したるわ!!」
祐介も身を引き締めいつでも狙える準備を整えた。

モクモクと亮輔と祐介の戦闘機を爆炎が包んでいる。
「やったか?」
宇宙人の1機が目の前爆炎を確認する。
しかし煙で中は確認できない。
機内のレーダーを確認する。
レーダーにはまだ機体の存在がはっきり映る。
「まだいる、、、。来るぞ!!」
機内に緊張が走る。
身構える宇宙人。
煙がゆっくり晴れていく。
「機体が見えた瞬間に撃ち落とす!!」
そして、、、煙が無くなり見えたものは、
「なに!!?」
そこに姿を現したのは何もない空間。

そこにあったはずの機体は消えている。
もう一度レーダーを確認する。
しかし、レーダーにはしっかりとその存在が映る。
目の前に存在しなくて、母船から送られてくるソナーのようなレーダーには反応する。
「!?、、、まさか!上か!!」
その表示の点が示す上空。爆炎の遥か真上を宇宙人が見上げる。

太陽の光が直射でまぶしく宇宙人の視界を照らす。

「さあ、祐介!獲物を仕留めるぞ。」
爆炎の勢いで上空へ飛び上がっていた亮輔が
遥か下方の宇宙船めがけて急降下した。

《『一式戦闘機「隼」』→『戦闘機』=『p−40(ウォーフォーク)』》

P−40(ウォーフォーク)、、、
      ドーントレス急降下爆撃機
      として知られ、高い高度から
      一気に急降下して、
      相手を撃ち落とす。
      その姿からウォーフォーク
     (戦鷹)と呼ばれる。


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太陽が目くらましになり見えなかった機体の影が
徐々に宇宙人の視界に見えてくる。
「ヤバい!」
しかし、そう気付く頃にはすでに遅かった。

重力も乗せた凄まじいスピードで下降する矢のような
戦闘機が宇宙人の宇宙船を
ピュンピュンピュン!
という銃声と共に貫くように通過した。

あまりのスピードに一瞬何が起きたか分からない程。
静止したように止まる宇宙船。
「!?」
撃たれたはずの宇宙船の宇宙人も状況が掴めない。
そして、時間差で時は動き出す。
ドカーーン!!

トライアングル【第10章】起死回生①-2


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時はその30分ほど前に遡る、、、。
「よし!やってやるよ!」
亮輔は女神の策略にはめられ、自分たちのせいで人類が
危機に直面している事を後悔するが、

梨緒の後押しでその責任を果たすべく施設の中で女神への報復を決意。
「梨緒!梨緒が防衛庁と繋がっているなら、防衛庁の戦力を集めれないか?」
亮輔が梨緒に確認を取る。
しかし、梨緒は首を横に振った。
防衛庁の中でもこの施設が一番の拠点だったの。でも女神によって施設の人たちはどこかへ飛ばされてしまった、、、。ほかの施設や自衛隊に連絡を取ろうにも無線もこの有様。今から連絡を取りにどこかへ移動する時間もない。」
そう!女神と対抗するにはあの空を覆うほどの宇宙船を相手にする必要がある。
しかも、2時間後には自分たちの町が破壊される。
それまでにはそれに対抗しうる戦力を集める必要がある。
しかし、そんな事は不可能だった。

この2時間でどれだけの戦力を?どのように集めればいい?
亮輔はそのあまりにも壮大な事に言葉を失ってしまう。
しかし黙っているだけでは時間が過ぎるだけだ。

その不安を断ち切るように首を左右に何度も振り、
街の為、人類の為にも自分がなんとかしないと、、、。
と、すぐに気持ちを切り替える。
「、、、まずは今ある戦力を確認すべきだ!」
とりあえず今出来る事はこの施設にあるもので太刀打ちする事。

国を守る為の施設だ!何か希望はあるはずだ!
しかし、現実はそんなに甘くは無かった。

「、、、、!」
梨緒に案内されて行き着いた先には敵の襲来に対抗するべく置いてあったであろう戦闘機や軍用ヘリコプターが並べてあったが、
亮輔と祐介の攻防の流れ弾でところどころ破壊されている。

武器はまだ使えそうなものが残っているが
肝心の女神の宇宙船まで攻め入る為の飛行機がないのであればどうしようもない。
「、、、くそっ!」
何であの時感情に任せて戦ってしまったのか。
夢中で周りにさえ気付かず。
"舞台"という言葉で今まで通りに好き放題戦えると
そう思い込んでしまった。
いや、根本的に今まで戦ってきた舞台にしても
本来は自由に使えるはずがない場所。
しかし、思い込んでしまった。この能力は神の与えた力なのだと。
そういう部分でも女神の周到さが伺えた。
自分に嫌気が指す。
しかしそれでも考えるしか無かった。
女神が悪いんだと。仕方が無かった。
女神の能力葉騙されるほどの強力な力だったのだと。

そう、あの力が、、、。
そう思った時、ふと亮輔の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。
「もしかしたら、、、。」
そう言葉だけ残して亮輔は急に走り出した。

「亮輔?」
梨緒も後を追う。

そこにはこと切れた祐介の姿があった。
苦痛に苦しむ祐介の表情。その脇には殺害に使われた注射器が落ちていた。
「、、、。」
「可能性としては十分!試す価値はある!」
落ちている注射器を拾うと、
これまでの戦いを走馬灯のように思い出す。
「今までは梨緒を巡る戦い。」
「しかし、、、」
「まだ、戦いは終わっていない!!」
そして連想をする。

《『うつ』→『注射器』=『治す』》

そう亮輔が連想した時。
こと切れていた祐介の身体が金色に輝いた。

「そうだとも!女神の能力は強力だ!」
金色の中の祐介の表情がみるみる安らいでいく。
「しかし逆にそれは今!」
祐介の表情が苦痛から平常に戻った時。
「女神に牙を剥く!!」
祐介がパチリと目を開けた。
ガーーーーー!
スイッチが入ったように急に起き上がった祐介。
「りょ〜〜う〜〜す〜〜け〜〜!!
き〜〜さ〜〜ま〜〜!!!」
唸りを上げると、
首を絞めるように、亮輔の胸ぐらを強く掴む

亮輔はその強力な絞めに顔色を変えながらも
目を逸らし、無抵抗で耐える。
その光景を横で見ていた梨緒が静止に入る。
「やめて!祐介!!」
怒りに表情を変えていた祐介。
しかし聞き覚えのある声に「ん?」と、少し我に返る。
引き剥がそうと祐介の腕を掴んでいる梨緒の姿にようやく気付く。
じっと梨緒を見つめると、状況が掴めないまま
すぐに亮輔の方に向き直り
「どういう事じゃ?」
眉間にシワを寄せたまま、
だが、肩の力はスッと抜け、亮輔の首元からは
ゆっくりと手が外された。

トライアングル【第10章】起死回生①-1


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「しかし暇ですね〜。」
宇宙人の一人がつぶやく。
「おお〜!騒ぎになっておる、騒ぎになっておる。」
女神は高台にある自分専用のパソコンのような機械で
地球の情報を調べていた。
パソコンの画面には"YAHOO!"の掲示板に女神のテレパシーに関しての憶測の書き込みが溢れていた。

女神がテレパシーで人類に訴えてから時間は30分も満たない。
が、その持て余した時間に宇宙船内でも盛り上がる者、
静かに過ごす者、仕事に打ち込む者。
様々に別れていた。
「女神様。地球人になぜ2時間も猶予を与えたのですか?」
暇な宇宙人が女神に問う。
パソコンの掲示板に食い入るように「いいぞ!」とか
「そうじゃないだろう!」とか楽しそうに盛り上がっている女神が画面を見つめたまま、軽い感じで問に答える。
「2時間という時間は長いようで短い。」
「この掲示板でもそうなように、憶測や推測で盛り上がるにはいい時間。」
「しかし、この2時間の間にどこまで逃げれる?どう攻めて来れる?」
2時間という時間。曖昧なテレパシーのメッセージ。
このメッセージの信憑性を確認して、状況を整理して、
部隊を整えて、攻め入る。
逃げるにしても対策を練るには短すぎる時間。

「どうせ何も出来ぬ。ただただ足掻く姿を見るのは面白いではないか。」
その女神が見せる笑顔は味方の宇宙人でもゾッとする。
その反面、味方でいて心強いと確信し心から漏れるように
「、、、おお!」と、小さな声が出る。
「この掲示板が2時間後。情報を確信した瞬間。絶望と恐怖に変わると思うと楽しいではないか。
侵略にあたって地球を調べ尽くしていた女神にとって
亮輔達の行動、メッセージの反応、地球人の考え方や行動まで全て掌の内。

全ては思いのまま。その中でも人を追い詰め、苦しむ姿を
ひたすらに楽しむ。残忍極まりない女神。

「おおおお!」そんな女神へ男たちの地鳴りのような声、
「さすが女神様!!」
船内は歓喜で湧く。
そんな中、「ん!?」と、一人の宇宙人の機械がレーダーに物体を捉える。
「女神様!レーダーに反応が!1機ですが飛行物体がこちらに向かってきております。」

宇宙船を中心に円状に巡らされた緑のレーダーに
小さな赤い点が映り、徐々に近づいて来ているのが分かる。
「おおおお!」という歓喜の輪の中、中心で盛り上がっていた女神が「フン!」と、バカにするように鼻息を漏らし、
「1機なら調査機という所であろう。」
「まぁ、まだ情報を流されるには早いのう。」
上から目線の高飛車な物言いで一言放った。
「消してしまえ。」



「ちょっと待てよ、、、。このレバーが上昇で、
これが旋回、、、。」 
この女神の宇宙船に近づく戦闘機。その中には亮輔。
そして、祐介が乗り込んでいた。

探り探り戦闘機の運転をする亮輔。
「亮輔!はよせんか!」
後ろから祐介がチャチャを入れる。
「うるせ〜な!ゲームで感覚は分かっても、操縦自体は初めてなんだよ!!」
フラフラと左右にぎこちなく揺れながら徐々に宇宙船に向け進んでいく戦闘機。
そこへ存在を嗅ぎつけた女神の軍の飛行機が5機向かってくる。
「おい!来たぞ!来たぞ!はよ!はよ!」
戦闘機内がまだ慣れない操縦の中、ワチャワチャと騒ぎ出す。

5機編成で飛んでくる。
そのうちの1機の射程に2人の乗った戦闘機が入る。
飛行機内の計器の緑の照準が探るように周りを徘徊し、
「見つけた!」とでも言うかのようにピタッと合い、
ピピピ!という音と共に照準が赤く変化する。
「発射!!」

ピープーピープー
警報音と共に亮輔の戦闘機のレーダーに"DENGER!"という
文字が点灯する。

「おい!亮輔!ミサイル来とる!ミサイル来とる!!」
慌てる祐介。
視界には発射されたミサイルが近づいてくるのが一目瞭然で分かる。
「分かってる!!」
亮輔は「これがミサイル、、、これがライフル、、、」
などとブツブツ言いながら戦闘機の文字盤を確認している。

「よし!」
亮輔が操縦桿を思い切り手前に引き、右に大きく回す。
それと連動して戦闘機がお腹を見せるように上昇、
右に旋回する。
「うおっ!!」
祐介の身体が上昇から発生する"G"により急に重くなったかと思うと視界が上下逆転。
上には地上が見える。
上昇しながら旋回で、上下左右、もう何がなんだから分からない。
しかし、未だピープーピープー!警報音は止まらない。

ミサイルは逃げるように上昇した2人の戦闘機を追うように軌道を変化して追尾する。

ピピピピ!
徐々に警報音の間隔が短くなる。

明らかにミサイルはすぐ側まで迫ってきている。
「あかん!あかん!」
祐介が座席をユサユサ揺らしながら、いても立ってもいられない感じで騒ぐ。

「大丈夫だ!大丈夫!」
亮輔が上下左右に機体を振りながらミサイルから逃げる。
ピーーーーッ!
しかし無情にも警報音は間隔が一つになり大きく鳴り響いた。
「あーーーーー!」
祐介のその声と共に
ドーーーーン!
ミサイルは戦闘機に直撃した。

トライアングル【第9章】絶望⑤


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ーーーある日、私の父の元、つまり防衛庁アメリカの国防総省から一本の連絡が入るの。それが事の始まりだった、、、ーーー


近年、アメリカの国内で人や、物体の喪失事件が相次いでいた。
FBIが調査に乗り出すと、その事件の起きている周辺で未確認の浮遊物体の目撃情報や喪失現場周辺から
強力な磁場のようなエネルギーが検出された。
浮遊物体や磁場の原因は不明。
事件は暗礁に乗り上げたかに思えた。
ところがここ数週、その磁場と同じエネルギーが日本の上空から感知された。
連絡を受けた日本の防衛庁が日本各地を調べると、
ここ数週、アメリカと同様な喪失事件が数件発生している事が確認された。

しかもその一番多く確認されたのが、ここ!
泉姫校区だった。

「そこで、一般人に化けて秘密裏に捜査を行うエキスパートの公安調査庁の職員を派遣する事になったのたけど、何しろ謎の多い事。怪しまれずに地域の調査が出来、
且つ、いざとなればダイレクトに父(防衛庁)を動かす事の出来る人物として、私に声が掛かった。

防衛庁長官の娘?公安調査室のエージェント?
今まで知らなかった梨緒の突拍子もない暴露。
それでも女神という存在、目の前に映る宇宙船を目の当たりにしている亮輔はどこかしっくりときた。

「特に今回調査に携わっている"審理室"というのは公安調査庁の中でも特別な部署で、法律では裁けない組織や団体。指導者に対し、国防を脅かすと判断した場合、直接裁きを与える事が出来る。」
公安調査庁は基本的にはテロ行為や破壊活動の防止。
反社会的な意思を持った者への調査、スパイ行為を主な仕事としている。
大きい事件では某心理教の教祖の潜伏先を暴き出したり。
その為、調査した事を報告する事はできても、警察官のような逮捕行為や逮捕状請求が行えない。
いわば民間人に化けて潜伏するだけの隠密部隊。
しかし、中には法律の手の届かない所で
警察も裁判官も裁けないような事例も存在する。
そんな時の為に存在するのが、"公安調査庁 審理室"だ。

「公安内でも"裁定"者、と呼ばれるような部署だからこそ、軍部と繋がった私は適任だんだんでしょ。」
警察も法律も届かない相手へ、調査して直接裁きを下す。
泉姫地区出身で地の利の詳しい梨緒。
軍部を直接動かす力を持つ、長官の父。
FBIすら調査している難事件。
謎の相手に対して警戒されないように調査し、迅速に対応するには確かに梨緒が適任といえよう。

で、調査している間に一人の怪しい女性を発見してね。そして円盤のような飛行物体も。その円盤は遥か上空を漂うように飛んでいたのだけど、その女性と会話でもするかのように動いていた。FBIの報告と同じ。あとは物体の喪失事例を掴み、検挙または対処するのみ。
「そんな矢先だった。2人とあの人(女神)がグラウンドで野球をしているのを目撃したのは。」
思えば梨緒が部室で見せてくれた笑顔。普段通りに接してくれていた笑顔の裏に
その時にはすでにこんな大きな事を抱え、
それでも亮輔や祐介にすら全く気付かれないまま自然と接してくれていた。
それを思うと、ただ欲望の赴くままに女神の言葉に身を委ねていた自分ちっぽけさ。
戦いに夢中になっていた自分の愚かさ、軽率さが憎くて堪らない。
<「いいえ。亮輔達が悪いんじゃない!私は知っていたのに!物体や人の喪失は聞いていたのに!それを考えれば瞬間的に移動できたり、物を飛ばせる事なんて予想は出来たはず!
それに泉姫周辺での出没情報。それは裏を返せば私の正体の方が先に気付かれていた。さらには父の情報までも。そうなるとこの施設の情報がバレていて、ここまで移動出来てしまう事まで分かったはずなのに!
分かれば止めることも、守る事も出来たはずなのに!!
私が気付いてさえいれば!!

梨緒の悲痛の叫び。それが亮輔の胸に突き刺さる。
俺たちが女神の誘いに乗りさえしなければ、、、!!



そんな2人に追い打ちをかけるように
直接脳に響くような声が聞こえてくる。
地球人のみなさん。こんにちは。
わらわ達は遠く642光年離れた、あなた達の言う"ベテルギウス"という星からやって来ました。
わらわ達は諸事情で自分達の星を無くしてしまい、
どこか移り住む星はないかと探した末に、生命の住める環境を見つけた。それがこの地球でした。
この地球の環境は素晴らしい。
わらわ達はこの星に移住する事を決めました。
しかし、地球人はどうやら外の星からの来訪者を好ましく思わないようです。
そこで決めました!今から2時間後。ある街を破壊します。わらわ達が望むのは絶滅か屈服。
それ以外ないと思って下さい。

それと同時にモニターに映っている宇宙船の中央部分が開き、
綺麗な緑色の光を放ちながら
何やらエネルギーのようなものを溜めだした。



「俺たちのせいで、、、。」
お互い好きな事を言い合う戦い。勝負がつかない戦い。
戦いを続けていればお互い譲れないだけに
行く末は頭に血が上ってエスカレートする。
おそらく、どういう戦い方をしていてもお互いが納得するまでなら結果は同じだっただろう。
互いが傷付け合って、結局は最後、同じステージで女神の思惑どおり。
完全にハメられた!
全ては女神の掌の上。敗北感。
そして、その通りに歩んだ道のりで生んでしまったものが
目の前で現実を突きつける。

「町が、、、。」
「地球が、、、。」
亮輔は全ての状況を理解し、目の前に置かれている地球のピンチに
絶望でその場で崩れ落ちる。
おそらくこのテレパシーの声を信じている人は殆どいないだろう。
客観的に見て、突拍子もなさ過ぎて、よく分からない。
理解したとしても、どこで何が、どんな状況になっているのか分からない事には信じようがない。
もし、近くでこの宇宙船を目撃している人が居たとしても
それがこのメッセージとすぐには結びつかないし
メッセージ自体の信憑性もあやしい。
となれば、女神はまず信憑性を高める為に侵略にあたって力を誇示する必要がある。
その為には見せしめが、必要。
その為の亮輔たちの町の破壊。
完璧に理にかなっている。
全地球人への脅迫と見せしめ。
2時間後には必ずこの町はなくなる。
思い出の詰まった町が、、、。
そして地球人はどうなってしまうのか、、、
捕虜、、、。
奴隷、、、。
絶滅、、、。

考えれば考える程、責任感の重圧で押しつぶされそうになり、
頭をグーっと抱え、身を縮める。

頭が張り裂けそうに痛い。
胃もキリキリする。
今にも発狂をしておかしくなってしまいそうだ。

しかし、そういう時にいつも助けてくれるのが梨緒だった。
「亮輔!切り替えよう!やっちゃった事は仕方ない。
これからどうするかが肝心だよ!

仕方ないないって、、、こんな状況にしてしまったのは俺たちなのに。
そんな簡単に割り切れるなんて、、、

それに、これからどうするか?
こんな状況、どうやったら打破出来る!?
そう否定的に心で言い放っていると、
ふと、おかしくなってしまいそうな自分が
前向きに考えている事に気付く。

、、、やるしかないのか!
亮輔はムクッと立ち上がり、
優しく梨緒を見つめる。
「そうか、、、いつもこうやって支えられてきたんだな。」
この梨緒の優しさに。
気持ちに。どうしても答えたくなった。
「やってやるよ!俺がなんとかしてやる!」