トライアングル【最終章】連想(ツラナルオモイ)②-1


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亮輔が再度思い出す。
次は小学2年生の頃。
パーン。ドンドン。
万国の旗や赤と白の飾りで賑やかに彩られた今日は運動会。
沢山の父兄や校舎中の生徒達が集まり「頑張れ〜!」
と、賑やかにお祭りのように騒ぐ。
そして次は小学2年生の"50m走"だ。
亮輔が真ん中に立ち、6人同時に横列に並ぶ。
もちろんこの時点で亮輔はある程度足が早かった。
かけっこも得意だ。
「位置について〜!」
先生がピストルのトリガーを引く。
「よ〜〜い。」
得意げに真っ直ぐ先を見て亮輔は走るポーズをする。

先生が耳に腕を当て真っ直ぐ腕を伸ばして高々とピストル
を上げた。
パーーーン!
銃声と共に一斉に6人が走り出す。

10mもしないうちから頭一つ分、他の走者よりも抜きん出てきたのはやはり亮輔だった。
他の走者も顔を赤くしながら一生懸命走る。
亮輔も負けじとまだ2年生のつたないフォームではあるが
バタバタと走る。
少しずつ亮輔と他との差が開き始める。
しかし、半分を過ぎた辺りで異変が起きる。
「あ!」
足がもつれてドテンと亮輔は転倒してしまったのだ。

「う〜〜〜。」
顔まで砂まみれにして亮輔は泣き出しそうになる。
膝小僧も擦り剥け血が出ている。
どんどん横から他の生徒が抜かして行く。
亮輔はそれでもおかまいなしに立ち上がろうとせず
その場で
「うわ〜〜ん。」
泣き出してしまう。
実は亮輔はこの頃までは泣き虫だった。

何かあると泣き、気に入らないと泣き、、、
やさしくて、勉強も運動も出来き、女子には
人気だったが
男子からは『泣き虫りょうすけ!』
と、からかわれていた。
それに納得していたわけではない。
今思えば、『認めて欲しい』『気にして欲しい』
と、いう思いが"泣く"行為になっていたんだと思う。
その時はそれしか表現の仕方が分からなかった。
その場で泣きじゃくる亮輔。
しかし競技の最中。他に競技をしている子もいる中
誰も助けには来てくれない。

するとそこに先に女子の競技を終え、近くに居ないはずの梨緒が走り寄ってくれていた
泣きじゃくる亮輔に梨緒は
「ほら、りょうすけ。行くよ。」
と、優しく手を差し伸べた。

梨緒は自分の競技を終えて違うところに居たはず。
なのに転んだ亮輔にすぐに駆けつけた。
きっと応援してた亮輔が転んだ瞬間にはもう駆け出していたのだろう。
人の目や周りの事をかえりみず、ただ亮輔が心配で走り出した。

そんな優しさを感じた時に『なんて梨緒は凄いんだろう』
と、今まで自分の事ばかり考えて主張していた自分のちっぽけさを実感した。


亮輔は答える。
「《梨緒→やさしさ》。あの慈悲深い優しさで、俺は
『泣き虫りょうすけ』から卒業した。」

亮輔が祐介の方を向き共感を求める。
「なんか梨緒ってあれだよな。無邪気で天然で、自分の事より人の事を気にして、、、。
逆にそれが『俺のほうがしっかりして守ってやらないと』って思わせるんだよなぁ。」

それに祐介も共感を覚える。
「そうじゃな。男らしさを自然と引き出させる天才というか、、、。それに加えて、、、」
そこまで言って祐介が思い出したように言葉を付け加えた。
「あっ!そうじゃ。《梨緒→〇〇》」