トライアングル【第4章】白い悪魔④


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祐介の投げた球は狙い通り、1番と3番を射抜く亮輔が目の前でストライクを取った理想的な形。
しかし、まだ力が強かった。
残ってしまった7番と、10番のピン。
祐介が残りのピンを確認しようとテレビの画面をみると、
チカチカ光る画面には"スプリット"の文字。
「なんや、見た事あるな。」
先程6フレーム目で見たこの文字は残りのピン同士が離れている事を意味する。
そんな意味など祐介は分からない。ただ記憶と経験はあった。
「なるほどのう。」
祐介はなんとなく、あの『曲がる球』であれば2つ当てれるかもしれない。そう思い、レーンの<右端から力いっぱいに手首を返して投げた。
キュルキュルと音を立てながら左へ転がっていく。

「フン」
ため息のような脱力のような余裕の鼻息を出し亮輔が見つめる。
「気の毒に」

いけや〜!」
左端の7番ピンに向かい球が転がる。
凄まじい回転で、ガーターの溝に落ちる!と、一瞬錯覚するほどのギリギリ、
かすめるように7番ピンに球が当たる。
ピンが祐介の凄まじいスピンのボールの勢いで大きく跳ねる。
上下、回転をしながら真横に飛び、
右端に知らぬ顔で悠々と立っていた10番ピンに横から直撃!
「よっしゃ〜!」
祐介が雄叫びのように叫ぶ。

バン!
亮輔が椅子の前にあるドリンクホルダーを両手で強く叩き
目を大きく開いて、今までになく取り乱した様子で言う。
ありえない!
亮輔が驚くのも無理はない。
祐介が残した7番、10番のピンは、並ぶピンの両端同士。
真横に一番遠い位置に存在する為、残ったら不幸。
プロでも倒す事が困難と言われる位の位置。
その難しさとピンの配列の三角形を顔、残りのピンと目を掛けて、そいつに
『見つめられたら身体が硬直してしまう』
"スネーク・アイ"と、呼ばれている。


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さながら、大蛇に勇敢に立ち向かう戦士と言ったところでしょうか、、、
「スペアーー!」と言うのも忘れ、祐介と戦士の姿を
重ねながらパチパチと拍手をしながら祐介を迎える。

初めてのスペアーの余韻に浸る祐介。
嬉しそうに今のシーンを何度も思い出しながら足取り軽やかに椅子に向かう。

その横をすれ違う亮輔。
祐介の嬉しそうな笑顔に腹が立つ。
「バカじゃないか!スペアーたった1本ごときに!」
ブーンと指を乾かし、球を握り、
マグレのくせに!!
その不満を払拭するように球を投げる。
ゴロゴロ転がった球。

綺麗なフォーム。
1番と3番の間を的確に射抜く。
ガターン!
崩れるピン。
しかし、残ったのは、、、。
「なっ!!」
4番、7番、10番のスプリット。
少し力みすぎていた。

「!出たのう!"SP"。」
祐介がチカチカ光ったテレビ画面に得意げに敏感に反応する。

「"SP"ってなんだよ!訳分からない省略しやがって!」
残ったピンにイライラしながら、ガタンガタンとレーンの奥でピンを直す音を尻目に球をキープする台まで戻る。
すると自然に祐介の姿が目に入ってしまう。

「"SP"はこうだったかのう?」
倒したスプリットの感覚を忘れないように素振りをする祐介。

そんな祐介が亮輔の目にはまるでこう言っているかのように映る。
『スプリットはこう投げるんじゃ!』
亮輔はうつむき悔しさに見を震わせる。
「くそっ!たった1球成功しただけのくせに!」

前回の祐介のミラクルショットに
「まぁ、これ位、、、。」
女神の感覚も麻痺していた。

実際、スネークアイほどではないといえ、4番、7番、10番のピンを倒すのは難易度が高い。
4番と7番を球で倒し、当たった球の勢いで、4番を角度を付けて右端の10番まで飛ばさなければいけない。

亮輔の手元に球が戻ってくる。
ガシッと鷲掴みするように球を手に取る亮輔。
祐介に出来て俺に出来ないはずがない!!
レーンへ向かいピンを凝視する。
「4番ピン、7番ピン、10番ピンの倒し方は7番ピンを倒すつもりで真っ直ぐ投げ、途中、4番ピンにかすめるように球を当てる。」
同じ事を念仏のように頭の中で繰り返しながらいつもより長く投げ前の時間を取り集中を研ぎ澄ます。
「よし!」
覚悟を決め、レーンの左寄りに立ち、ゆっくり慎重に腕を振り上げ、置くようにそっと球を転がした。
球は音がないかのように静かに転がる。

亮輔のいつもとは違う投げ方に「どうなるのか?」と、
じっと目を凝らす祐介。

転がった球が少しも曲がる事なくまっすぐ綺麗に4番の端に当たり、そのまま7番を射抜く。
そして弾かれた4番が10番の方向へ飛ぶ。

女神が声を出すために大きく息を吸った。
「ス、、、」

亮輔も両手のガッツポーズが胸元まで出ていた。

、、、しかし、
球は無情にも10番のすぐ脇に逸れていった。

「、、、っ残念!」
女神が吸った息を押し殺すように飲み込み一言添える。

「くっ、、、」
1本残ったピンに悔しさを滲ませる亮輔。

「いや〜戦いはこういうギリギリで勝てるのが楽しいのう。」
何故か自信満々で勝った気でいる祐介。
現在スコアには祐介がスペアーだった為、6フレーム目の41から祐介のボードは黒塗りのまま。
亮輔のボードには先駆けて7フレーム目110、8フレーム目
119と表示されている。

祐介の7フレーム目が謎のままではあるが119対41と表示上では大差が付いているのにも関わらず
浮かれムードの祐介とは対象的に亮輔には
「スペアー1本じゃないか!」
と、悲壮感が漂っている。

レーンに立ち、自信ありげにポキッポキッと、
「やってやるか」というように拳を鳴らす祐介。

目の前の球に指を入れ、先程の自分を思い出す。
「さっきがちょうどド真ん中に行って2本残ったからのう。どことなく亮輔とは倒れ方が違う気がするんじゃが、、、。」
そして何となく記憶にある亮輔の残像の真似をしてゆっくり、そっと投げてみる。
球はスーッと滑るように静かに転がり、
そっととは言え、パワーのある祐介の球はそのまま綺麗に真ん中を射抜いた。
ガターン!
大きな音を立て弾けるように倒れるピン。
そして、、、。

「なに!!?」
亮輔は目を疑った。

目の前には綺麗にピンの無くなったレーン。

「ストラーーイク!!」
高らかに声を上げる女神。

祐介も
「よっしゃっ!」
この勝負で一番の大きな声を上げる。