トライアングル【第8章】終(しゅう)①

 

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オレンジ色の白熱灯が施設を薄暗く照らす。
そこはまるでハリウッド映画のような、ターミネーター劇中に入り込んでしまったかのような
すぐにアクション映画が始まりそうなそんな光景。
「廃工場か?」
鉄筋に隠れつつ辺りの状況を探る亮輔。
人気もなく、機材が動いている音もしない。
ただ、ジーッと電気が流れるような音、
あと、赤く光る回転灯が気になる。
「何かの施設、、、?」
どんな場所のどんな施設。
考えてはみるが、まぁどちらにせよ女神の事だ。
「施設の人はどこか飛ばしたのか?」
人気のない建物。もし、施設だとしてもおそらく
人がいない、戦いに適した舞台を用意しているのであろう。
それよりも、、、。
キン!キン!
亮輔の隠れていた鉄筋の柱に弾痕と共に火花が散る。
今、晒されている命の危機。
それを回避する事が大事だ。

 

亮輔が隠れているであろう鉄筋へ向け、1発!2発!
弾丸を打ち込んだ祐介。
その衝撃で矢で射たれた右肩が鈍く痛む。
迷彩柄に変わった服の右肩は
既に血が滲んできている。
痛みを感じる度に亮輔への怒りが込み上げてくる
「りょうすけ〜〜〜!!」
唸るように名前を叫ぶ。
その怒りに任せたまま、近くにある何かに被せてある布を

ピリピリッ!と引きちぎり、
止血をしようと
左手と口を使って右肩、脇の付け根にしっかり巻きつける。
「殺す!」

 

キンキン!
祐介が放ち続ける弾丸が金属音を立てながら周りの鉄筋や
床に穴を開ける。
その狙いを鉄筋の柱から柱へ、的を絞らせないように
走り抜け
辛くも避けながら亮輔は逃げ惑うしかなかった。
なぜなら
亮輔の手には拳銃はまだ握られていない。
「どうやらスイッチスタイルらしい。」
今まではどちらかの連想で左右されていた舞台が
怒り任せで発動した"ボクシング"から互い互いの連想で
能力が発動するらしい。
つまりは、この状況を打破する為には
連想をして武器を手に入れる必要がある。
このままでは防戦一方、、、。」

その前に
まずは体勢を整えないといけない。
キンキン!
考える間もなく亮輔の隠れる鉄柱を弾丸が襲う。
「なんとかしないと、、、。」
周囲を伺う。
すると、少し先の鉄柱が入り組む向こう側。
鉄格子の階段の上に扉が見える。
「あそこまで行ければ!」
亮輔は扉へ向け走り出した。

 

祐介が右の掌をグーパーし、
上腕を鉄アレーで鍛えるかのように
上下させながら右腕の感覚を確かめる。
先程止血した効果もあり、
力の入らなかった右腕も徐々に力が入るようになってきた。
しかし、一向に収まらない痛み。
痛みを感じる度にムカつく。
怒りのボルテージは上がる一方。
頭を斜めに傾け、眉間にシワを寄せながら目を見開き
どこだ!と、探るように右手で鉄柱を掴むと
グイッと身体ごと覗き込む。
舐めるように見るがそこに亮輔の姿はない。
どこ行った!首を機敏に左右に振る。
すると、視界に人影が入った。
人影の方を再確認する。
入り組んだ鉄柱の陰からチラチラ見えるのは
亮輔の走る姿。
どこかへ猛スピードで駆け出している
逃がさない!
「りょうすけ〜〜〜!!」
怒りを超えた憎悪に満ちた
低い叫び声を亮輔へぶつけ
祐介はターゲットへ向け猛ダッシュ
同時に持っている拳銃を亮輔めがけて
バンバンバンバン!と連射する。

 

キンキン!
走る亮輔のすぐ脇の鉄柱に当たる弾丸の音と
祐介の叫び声が鼓膜に響き渡る。
無防備で走っていた事に気づき
とっさに両腕で頭を隠すように覆う。
キンキンキン!
足元、通過した前方のどこかでも弾丸が当たる音が聞こえる。
走りながら頭を抱えたまま振り返ると
腕の痛みがあるのか、照準を合わせようとしているのか
猫背に背を丸めながら
4本足か、2本足か分からない走り方で
全速力で向かってくる祐介の姿。
その姿から
本気の殺意を感じる。
「りょうすけぇぇぇ〜〜〜!」
何度も叫ぶ声と同時に
拳銃から火花と銃声が響き、
刹那に弾丸が降り注ぐ。
ヤバい!
ちょうど到着した前方の階段に
亮輔は身体を出来るだけ小さく丸め込み
手すりにすら触れないように
隠れ
階段を駆け上がる。
キンキンキン!
階段全体が金属音で包まれる。
「うあああああ!!」
その音をかき消すように叫び声を上げる。

 

バンバンバン!
祐介が拳銃を打ち続けるが
的の動く速度が早く中々命中しない。
闇雲に打っても仕方ないと
階段が丸々視野に入る位置で一度立ち止まり
拳銃の戦端と窪みの照準をしっかりと
階段を駆け上がる亮輔の動きに合わせ、
バン!
一発弾丸を打ち込む。

 

キン!
という音と同時に亮輔の左足のくるぶし辺りを弾丸がかすめる。
「っ!!」
拳銃の弾丸というものはスクリュー回転で飛んで来るため
かすっただけでもそのスクリューに肉がえぐられる。
ちょうど終えた階段。
しかし、左足に痛みが走る。
その痛む左足を抱えるように左手で持ち
右手で扉のノブをひねると
ズルっと力なく倒れ込んでしまう。

 

祐介がもう一度亮輔に照準を合わせる。
しかし、倒れ込んでいる為、的が余計に小さい。
ノブをひねった事で少し空いた隙間を潜るように入る亮輔。
急いで、
バンバン!
2発弾丸を打ち込む。

 

もぞもぞ歩伏前進ともいえないくらいの
不細工な形の這い方で隙間からなんとか足まで抜いた亮輔。
すぐさま鉄の扉を体重をかけて押す。
閉じる扉。
その隙間を1つの弾丸が抜け、亮輔の頬をかすめる。
ほぼ同時に飛んできたもう一つの弾丸は
閉まりかけている鉄の扉の向こう。
ちょうど押している両手の辺りに
ゴン!
と、鈍い音を立てて当たる。
その衝撃が両手の掌にもジーンと響く。
この扉の向こう。
下手したら直撃していたかもしれない弾。
打たれたくるぶしと頬の痛み。
それでもなんとか逃げ切ろうと
這って潜り込んだ隙間。
命からがらの恐怖と焦りで鼓動は高鳴り
ハァハァと息を切らせながら
なんとか扉に体重をかけ
押し切る。
カチャッ!
扉を締め切る音がする。
しかしお構いなしに扉の向こうでは尚も
ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!
八つ当たりをするような扉に当たる弾丸の音が
響いてくる。