トライアングル【第3章】白熱(はくねつ)⑤


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まるでサーカスのような、体操選手のような、
非効率でしかし無駄のない祐介の"跳び箱"に
「祐介らしいな。」
と、冷静に分析する亮輔。

実際は祐介の非常識的な行動に心は穏やかではない。
しかしなんと言っても次は最後の"網"。
焦っている心を隠すかのように自分に「落ち着け」と言い聞かせ亮輔は冷静さを保っていた。

"網"に手を掛けた祐介。思いっきり持ち上げてみる。
コースに大きく敷かれた"網"が全体的に大きく揺れる。
持ち上げてみると思った以上に重い"網"。
祐介の力で思いきり持ち上げてもしゃがんでようやく入れる程の隙間しか開かない。
祐介は首を丸め膝立ちで"網"を潜るように手繰り寄せた。

"跳び箱"を両足を広げ、チラッとトランクスをチラ見せさせながら手堅く飛び越えた亮輔。
次に待ち構えている"網"に到達する。
祐介はすでに半分ほど進んでいる。

祐介は膝立ちのまま手繰り寄せるように一歩一歩進む。
「ガーッ!」
手繰り寄せた"網"に頭が引っ掛かり、スポッ!と"網"の隙間
から頭を出す祐介。
振り返ると、ちょうど亮輔が"網"を潜ろうとしている。

身体を低くかがめ、"網"を持ち上げ半身を潜らせた亮輔。
顔を下に向け、頭を出来るだけ低くし、地には這いつくばようにうつ伏せ、
腕と脚を交互に動かす"ほふく前進"。

そんな亮輔を見て両手でハマった頭を鼻を引っ掛けながら上に持ち上げ抜く祐介。
首を丸めながら"網"を手繰り寄せるように膝立ちで進んでいく。

女神がゴール地点に降り立つ。
ゴール地点には「GOAL!」と書かれた白いテープ。
ゴール前の景色が戦いの土煙でモクモクと白く濁る。

最後の"網"を手繰り寄せ、いち早く頭が抜けたのは祐介。
担ぐように肩に掛かった"網"を右手で外す。
見ると亮輔は3メートルほどまで差を縮めている。
慌てて立ち上がろうとする祐介。
しかしその時、スカートのフリルが!
"網"に引っ掛かりスカートがずれ落ちる。

「なんじゃと!?」
半分見えたトランクス。

亮輔がズルズルとほふく前進で近づく。

祐介はスカートをぐっと持ち上げ、履き直し、
スカートの引っ掛かったフリルの部分を思いっきり引っ張ってみる。
破れそうになりながらもピリッ!と音を立てて抜けたスカート。
膝歩きで付けた砂を落としながら両足のかかとをしっかりと地につけ走り出す。

土煙から最初に女神の視界に入ってきたのは祐介。
「先にゴールに向かって来ているのは祐介選手!」

亮輔も"網"から身体を半分出す。

亮輔選手も"網"から抜けた模様です。残すところあと5メートル!
女神が「1」と書かれた旗を手に持つ。

祐介の右手がゴールテープにかかる。

ゴーーール!!
女神が「1」と書かれた旗を高らかに掲げる。
勝者は、、、!
、、、亮輔選手!!

ハァハァと息を切らせ、股を大きく開け、
両の膝に手を置きうつむく亮輔。

「なんじゃと!?」
ゴールテープを切ろうとした祐介の横を風のように通過した亮輔。
驚いて見つめる祐介に亮輔が勝ち誇ったように振り返り、
ピン!と人差し指を伸ばし、
「見たか!祐介!!」
祐介を指差し息を切らせながらも、言い渡すように言う。

最後の10メートル。
祐介が"網"から抜け出し、亮輔が"網"を抜けるまで差は5メートル。
"網"から上半身を出した亮輔は這いつくばっていた身体を起こすのだか、
この時、両手の人差し指、中指、親指の3本で腕立て、
右脚は曲げ、左足は伸ばすしお尻を浮かせるように身体を起こす。
これはまるで陸上の"クラウチングスタート"。

そのまま手の指とつま先で身体を前へと思いっきり押し出し加速。

お前は"網"を出た後『減速』。俺は『加速』。それがお前の敗因だ!!

こうしてロケットダッシュした亮輔は5メートルの差を埋めた。

、、、やるのう!
祐介はこの熱い戦いに身震いするように笑みを浮かべ、
普段は見れない泥まみれで息を切らした"本気"の亮輔を
称えるように言った。

しかし、思い出して欲しい。
この白熱したバトルで忘れている事。

称える祐介の姿は亮輔の目にはこう映る。
泥だらけでタユタユに破れたピンクのリボンの付いた服から肩を出し、
破れたフリルのスカートから半分トランクスを見せ、
汗でアイシャドーが黒い涙と化し
口紅が色んな所に顔をつけたからか頬まで裂けているように赤く広がり
こちらを見ながらニヤける祐介。

「、、、、これはダメだろ、、、、」
亮輔は見るに耐えれずすぐさま祐介から視線を逸して
女神に言う。
「次行こう!」